■渋カッコイイおじさんと苦労人女子高生のラブコメ 『進駐軍(GHQ)に言うからねっ!』
最後は、筆者に枯れたおじさんの魅力を教えてくれた短編読切り『進駐軍(GHQ)に言うからねっ!』(1984年掲載)を紹介したい。
身寄りがなく、清掃員の仕事をしていた女子高生・松浦七緒は、会長令嬢から婚約を迫られていた会社専務・志貴正和がついたウソに巻き込まれてしまう。
令嬢との婚約を回避したい志貴、生活のために節約したい七緒。互いの利益が一致し、七緒は志貴の家でハウスキーパー兼偽装婚約者をすることになる。
川原先生の描く“イケおじ”は年齢以上に枯れていて哀愁漂う感じだが、実は34歳の志貴もまさにそのタイプ。見た目が良く仕事もできる志貴だが、感情の起伏に乏しく、暗いクラシック音楽ばかりを聴いている生活を送っていた。
ふたりのあいだで、たびたび年齢差によるジェネレーションギャップが生じるが、志貴の返答がいちいちネガティブなのが妙におもしろい。たとえば七緒が「伊武雅刀のようなイケボ」と褒めると、実は音痴であることを暴露したり、女子高生の七緒がからかって「おじさん」と呼ぶと、自ら「おじさんは」と言ったりするなど、だんだんと志貴が愛おしくなってくるのだ。
恋愛の結末をはっきり描くことが少ない川原先生だけに、本作も曖昧な感じのハッピーエンドで終わっている。だが、読者としては、しっかり幸せを感じられる終わり方なのが不思議である。
今回紹介した3作品以外にも、川原泉先生の傑作はまだまだある。『甲子園の空に笑え!』に登場した広岡が女性プロ野球チームの監督として活躍する『メイプル戦記』(1991年より連載)は、前作にハマった読者におすすめ。
ほかにも奇跡のフィギュアスケート漫画『銀のロマンティック…わはは』(1985年掲載)、夜中に男子学生がカーテンをドレスに見立てて踊る『月夜のドレス』(1984年掲載)などは、いずれも見逃せない作品だ。
シュールながらも妙に説得力のある展開で、ほっこりさせられて惹かれる……それこそが川原泉作品の魅力なのかもしれない。