■耐え難い激痛描写に読者も悶絶…翔の“盲腸”手術

 荒廃した世界に放り出され、食料を大人に奪われ、さらに教師たちまでも襲い掛かってくる……これだけでも子どもたちにとっては十分絶望的な状況なのだが、そこに駄目押しのように襲い掛かってくるのが、数々の“病”の脅威だった。

 とくに主人公・高松翔が“盲腸”に苦しめられるエピソードは、作中屈指のトラウマシーンとして本作を語る上では欠かすことができない。

 数々の苦難を乗り越えてきた生徒たちだが、翔が盲腸による激痛を訴えるようになり、困惑してしまう。当然、まともな医者など存在しているわけもなく、なんと生徒たちは自らの手で翔を手術することを決意するのだ。

 そんな緊迫した状況で執刀医の役を命じられたのが、クラスメイトの一人である柳瀬であった。父親が医師であり、自身も医師志望であるという理由だけで、“盲腸”手術をおこなうことになってしまった柳瀬。

 これだけでもなかなか凄まじい状況だが、なんと子どもたちは麻酔もない状況下で、鉛筆削り用のカッターナイフを使って盲腸を摘出しようと、翔の腹を切り裂いてしまうのである。

 生徒たちに押さえつけられ、意識がある状況下で腹を裂かれていく翔の姿はなんとも痛々しく、楳図さんの画力もあって壮絶な空気がこれでもかと伝わってくる。

 物資のない状況下で病を発症する危機的状況はもちろんのこと、ありあわせの道具で無理矢理に手術をおこなう強烈な展開に、思わず目を背けてしまった読者も少なくないだろう。

 

 突然タイムスリップし、荒廃した世界に取り残された子どもたちのサバイバルを描いた『漂流教室』。

 そのあまりにも非情な展開の数々は、観る者を絶望のどん底へと叩き落していく。文明が失われた世界のなかでは、まさに信じられるのは自分だけ……ということなのかもしれない。

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