頼れるはずの先生も敵になり、麻酔もないのに盲腸手術…『漂流教室』で強烈だった「非情すぎる展開」の画像
小学館文庫『漂流教室』第1巻(小学館)

 数々の名作ホラー漫画を世に送り出してきた漫画家・楳図かずおさんだが、なかでも多くの読者にトラウマ級の衝撃を与えた作品といえば、1972年から『週刊少年サンデー』(小学館)で連載された、『漂流教室』だろう。

 あまりにも容赦ない描写の数々で読者の心をへし折った、絶望的エピソードの数々について見ていこう。

■抑圧された本性を解放した学校の“支配者”…関谷久作

 主人公の少年たちが学校ごと未来の世界へタイムスリップするという、実に衝撃的な展開で幕を開ける『漂流教室』だが、その状況に徐々に疲弊していく人間同士の醜い仲間割れが物語の随所で描かれていく。

 なかでも、子どもたちと共にタイムスリップしてしまった給食を納入する業者の男性・関谷久作は、その豹変っぷりで多くの読者にトラウマを残したキャラクターだ。

 もともとは優しい給食のおじさんとして子どもたちに認知されていた関谷だが、実はこれは仮の姿。温厚な男性に見えていたのもすべて外面を良くしていただけに過ぎず、実際は子どもたちはもちろん、教員たちに対しても不平不満を募らせる、どこか幼稚な思想の持ち主で、残忍かつ暴力的な性格の人物だった。

 関谷は抑圧された環境下に置かれたことでこの本性が一気に発露、暴走してしまうこととなる。作中では「まだ給食費を払ってもらっていない」というとんでもない理由から給食室を占拠し、学校に残された食料を独り占めしてしまう。さらに彼の暴走はエスカレートしていき、ついには暴力によって学校中を支配するようになっていくのだ。

 自身を学校の“支配者”だと称し、抵抗する者は子どもであろうとも容赦することなく暴力を振るう、作中随一の極悪非道なキャラクターとして横暴の限りを尽くすこととなった。

 荒廃した世界での生き残りに苦心する状況下において、自身の私利私欲のために力を行使する“大人”の姿は、タイムスリップしてしまった子どもたちはもちろん、読者にとっても強烈なトラウマとなったことだろう。

■極限状態で壊れていく頼りがいのある存在…豹変した教師たち

 荒廃した未来世界に取り残される極限状態は、前述の関谷のみならず多くの大人たちの心を打ちのめし、崩壊させていった。

 6年3組の担任をしていた男性教師・若原。元々は指導力に溢れた頼りがいのある存在だったが、自分たちが置かれた危機的な状況に徐々に摩耗していき、ついには精神に異常をきたしてしまう。その結果、なんと次々に教師や生徒を殺めていく“殺人鬼”へと変貌してしまったのだ。

 その殺害方法も実にさまざまで、ビニールを巻き付けて窒息させようとしたり、車を使って轢殺をするなど、ありとあらゆる方法で人を殺めていく。その姿は脅威以外のなにものでもない。

 また、男子教師の荒川も、若原ほどではないにしろ精神的に追い詰められたことで、とんでもない行動をとってしまった人物の一人だ。

 未来にタイムスリップしたことでパニック状態に陥る子どもたちを前に奮闘する荒川だったが、一向に鎮まることのない生徒たちに彼の精神も限界を迎えてしまう。

 なにを思ったのか荒川は息子・和広を抱きかかえ、その腕目掛けて砕き割った自身の眼鏡を突き立て、子どもたちを恫喝してみせたのだ。

 頼りがいのある存在であるはずの教師たちが精神に異常をきたし、おまけに“敵”として襲い掛かってくる救いのない展開はまさに恐怖のひと言。読者を絶望の淵に突き落とすこととなった。

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