■氷河を救うため隻眼となった兄弟子
最後に紹介したいのは、「海将軍(ジェネラル)」であるクラーケンの「アイザック」。彼はカミュに師事し、キグナス氷河の“兄弟子”だった人物である。
東シベリアでの修行時代、アイザックは人格、実力ともに優れ、正義感あふれる人物だった。だが、海底に眠るマーマ(母親)に会いに行った氷河を救うため、アイザックは潮流の激しい海に飛びこむ。
なんとか氷河を救い出したアイザックだったが、氷山で左目を失い、力尽きて海中へと沈んでしまう。これで死んだと思われたが、彼はクラーケンと出逢い、ポセイドンによって救われた。
こうした経緯があり、ポセイドンの“地上の汚れを一掃する”考えに同調することになったアイザック。わずか1、2年で聖闘士候補から海将軍にまでなったのだから相当すごい。
生命の危機がそのまま人生の岐路となり、かつての弟弟子・氷河と相対することになるのだから読者としても複雑である。
そして自分のせいで隻眼になったアイザックを目の当たりにした氷河は、自責の念から無抵抗を貫く。そんな氷河に、アイザックは彼の左目を潰したように“見せかけ”たり、無抵抗な氷河を倒したあとに身を案じるなど、本来の人の良さは隠しきれなかった。
だが、アイザックが貴鬼に暴力をふるったのを見て、氷河は心を奮い立たせ、師カミュの必殺技「オーロラエクスキューション」でアイザックを倒す。
そのときもアイザックは「や…やっと敵に対してクールになれたな氷河…」と満足そうな表情を浮かべている。このセリフから、アイザックは弟弟子の氷河を成長させるために自ら悪役を買って出たようにしか思えなかった。
運命の歯車がズレたことで、道を違えることになったアイザックと氷河。今あらためて読み返すと、アイザックの覚悟と度量の大きさに感心させられる。
そして最後にもうひとり、魅力的な「地味系キャラ」として忘れられないのが、沙織に仕える“辰巳”こと辰巳徳丸である。
城戸家の執事の辰巳は、眉なしスキンヘッドというコワモテの人物。幼いころの沙織のワガママを許し、星矢たち孤児を虐待していた。そのため読者のなかには彼を嫌う人も多いことだろう。
だが、大切な「お嬢様」こと、沙織に対する忠誠心は本物だ。いくらイカツイ容姿とはいえ、常人の力が及ばない聖闘士が待ち受けるギリシャ聖域まで、竹刀片手に赴いた気概は賞賛に値する。
さらに、多少は小宇宙(コスモ)を操る雑兵を不意打ちで倒したのだから、とんでもない一般人である。
“アテナ”として命を狙われ続けた沙織が無事に育ったのも、実は裏で辰巳の尽力があったおかげかもしれない。個人的には、どんなときも「お嬢様ファースト」の姿勢を貫き通した辰巳という人物に興味をひかれる。
リアルタイムで『聖闘士星矢』の連載を読んでいた当時は、ビジュアルの良いイケメンキャラたちがやはり人気だった。だが、大人になってあらためて『星矢』を読み返してみると、途中退場したキャラや地味な役回りのキャラの言動にも魅力を感じてしまう。