車田正美さんの大ヒット漫画『聖闘士星矢』(1985年より連載開始)は、ギリシャ神話をベースに熱い戦いと友情が描かれた作品だ。なかでも、主人公のペガサス星矢をはじめ、ドラゴン紫龍、キグナス氷河、アンドロメダ瞬、そしてフェニックス一輝のメイン五人はいずれもイケメンぞろいで、多くの少年少女読者をとりこにした。
ほかにも敵や味方に魅力的なキャラクターが多数登場したが、その一方で物語が進むにつれて徐々に存在感が薄くなっていったキャラもいる。
いわゆる地味系のキャラに該当するのだが、年齢を重ねた今、あらためて作品を読み返してみると、当時は理解できなかった魅力にひかれる部分もある。
そこで今回は、大人になってから良さに気づかされた、『星矢』に登場する「地味系キャラ」に注目してみたい。
■まさに純愛! 大切な女性の思い人のため命をかけた大男
まず最初に触れたいのは、ペガサス座の聖衣を賭けて星矢と戦った聖闘士候補生「カシオス」。2メートル越えの巨体の持ち主で、モヒカン頭に悪人ヅラをした典型的な敵キャラのような人物だ。
「ふしゅらしゅらしゅら」という得体のしれない笑い方もクセが強く、その容姿からオッサンかと思いきや、実は15歳という設定にも驚かされた。
聖衣の争奪試合では星矢に左耳を削がれたあげく、「ペガサス流星拳」で敗北。ただ負けただけでなく、星矢に「おまえは聖闘士の表面的破壊力を身につけただけ」と実力までこき下ろされた。
そんな散々なやられっぷりだったカシオスだが、「黄金聖闘士編(十二宮編)」では過去のイメージを一変させる場面が描かれている。
教皇の「幻朧魔皇拳」によって洗脳された黄金聖闘士のアイオリアは、容赦ない攻撃で星矢を追い詰める。だが、そこに現れたカシオスは、ある意外な行動をとった。
実は、幻朧魔皇拳の洗脳を解くには「目の前で人が死ぬ」ことが必要。そのことを知っているカシオスは、自らの両腕で自身の腹を貫き、アイオリアの「目の前で死ぬ」ことで正気に戻そうとしたのだ。
カシオスがそのような行動をとった裏側には、彼が淡い恋心を抱いていた師匠シャイナの存在がある。素顔を見られたことで星矢をつけ狙っていたシャイナは、いつしか星矢に対して愛情を抱くようになった。
つまりカシオスは、自身が心ひかれるシャイナを悲しませないために、彼女が愛する星矢を、文字通り命がけで救おうとしたのである。
報われないことが分かっていながら、愛する人の幸せを願って恋敵のために命を捨てたカシオス。あまりにも切なすぎる献身的な行動には、素直に感動させられた。『星矢』には多種多様なイケメンが登場するが、このときのカシオスは容姿など関係なく、真にカッコいい男だと感じられた。