2007年に放送を開始した、平成仮面ライダーシリーズの第8弾『仮面ライダー電王』 。放送終了から16年が経過した現在でも、人気ゲームとコラボしたり、パチンコに登場したりと、何かと話題を集めている。
同作は、主人公の野上良太郎が、現世に出現した未来人「イマジン」のモモタロスらと協力し、時の流れと未来を改変しようとする侵略者のイマジンと戦う物語だ。
そんな電王の作中における最大の見どころが、佐藤健さん演じる仮面ライダー電王こと良太郎が見せる、“憑依シーン”である。
電王は、良太郎に憑依した仲間のイマジンたちの力を借りて戦う。劇中では合計7体のイマジンに憑依されたが、憑依されると見た目が変化し、性格や口調もイマジンのものに変化。佐藤健さんは、そのイマジン7人の役柄をひとりで演じきった。つまり、「1人8役(良太郎+イマジン7人)」という役どころをこなしたのだ。
そして、『仮面ライダー電王』が初の連続ドラマかつ主演であった佐藤さんは、この作品をきっかけに俳優としてブレイクしていったのである。
そこで今回はそんな佐藤健が演じた、イマジン憑依時の多彩な変化と名演技について振り返っていこう。
■これが原点…弱々しさがこぼれる「素」の良太郎
イマジンの憑依を語る前に、「素」の状態の野上良太郎について触れておきたい。『仮面ライダー』の主人公と言えば、正義感にあふれ、身体能力が高く、たとえ怪人が現れても元の体である程度対処できるような、たくましい人物のイメージが強かった。
しかし、『電王』の良太郎は、臆病で引っ込み思案、そしてケンカも弱い。それに加えて運も悪く、たびたび不幸に見舞われるなど、清々しいほどの弱弱しさを感じさせる人物である。
初登場の変身シーンに至っては、最初の敵であるバットイマジンに対し、どのイマジンも憑依していない「プラットフォーム」の状態で戦闘へ。しかし、まったく有効な攻撃は行えずじまいだった。 とはいえ、他人の不幸や幸せに対して人一倍敏感で、決めたことは何があってもやり遂げようとする意志の強さを感じさせる部分もある。
そんな、これまでのライダー主人公のイメージを一新する野上良太郎を、佐藤健さんが見事に演じきったことは注目すべきポイントなのだ。
■メインのイマジン4変化! 俺様キャラからブレイクダンスまで
佐藤健さんの名演技として見逃せないのは、やはりメインとなる4人のイマジンに憑依されたときの演じ分けだろう。憑依された後には、イマジン役の声優の声と、佐藤健さんの演じる声が重なるようなかたちでオンエアされていた。
モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスの4人のイマジンは、作品中、頻繁に良太郎に憑依することになる。最初に契約したモモタロスは、本人が粗暴かつワイルドな性格なため、憑依時は好戦的な「俺様キャラ」へと変貌。佐藤さんは目をむいた表情で、そんな粗暴なイメージを見事に表現していた。
ふたり目のイマジン、ウラタロスに憑依された際は、眼鏡をかけて、後ろ髪が跳ねた七三分けの知的な見た目に変わる。良太郎の意識がない時には女性を口説くなど、モモタロス憑依時とはまったく異なる性格だが、佐藤さんは手の細かい動きを多用。キャラの「クールさ」「知的さ」がきっちりと伝わってきた。
3人目のキンタロスは、涙もろく人情派の力持ちキャラ。キンタロスに憑依されると、長髪を後ろで束ね、着流しを着用した、一風変わった姿に変貌を遂げる。歩き方ひとつとってもドタドタとした歩き方となり、実際は線の細い佐藤さんが「力持ち」に見えた。
そして4人目のリュウタロスに憑依されたときは、DJ風の陽気な外見になり、性格もむじゃきで子どもっぽいものへと変わる。
また、周囲の人間たちを一時的に洗脳する能力を持ち、「リュウタロスダンサーズ」として引き連れる場面もあった。そしてこのダンサーズをバックダンサーにして、華麗なブレイクダンスを披露。当然、踊ったのは、良太郎を演じる佐藤健さん自身だ。
劇中の随所で佐藤さんの特技でもあるブレイクダンスを披露したのも驚くべき点だが、佐藤さんは卓越した身体能力を活かし、華麗かつ激しいアクションシーンにも挑んでいる。
激しい喜怒哀楽の変化、さらに憑依するイマジンごとに異なる個性を、基本的に動きの違いのみで演じ切った。さらに、ブレイクダンスのような特殊な演技までこなせたのは、佐藤健さんの並々ならぬ努力と、それを実現できるだけの表現力の賜物だろう。