■貧しくてやさしい侍…しかし一騎打ちシーンでは息をのむ『たそがれ清兵衛』
2002年11月に公開された、山田洋次監督による映画『たそがれ清兵衛』。本作で真田さんは主人公の下級武士・井口清兵衛役を演じ、日本アカデミー賞主演男優賞を獲得。作品も計12部門で最優秀賞を獲得と、時代劇の歴史に残る名作となった。
物語のあらすじはこうだ。真田さん演じる下級武士・井口清兵衛は、家族を支えるため黄昏時になると早々に帰宅する日々から「たそがれ清兵衛」と呼ばれていた。しかし、幼なじみの朋江(宮沢りえさん)を助けたことで、実は剣の達人であることが発覚し、藩の命で上意討ちに選ばれてしまう。
この映画での真田さんは、これまで演じてきた力強い武将などとは違い、貧しい侍を演じている。基本的に清兵衛は乱れた髪に無精ひげを生やし、ボロボロの着物をまとっている。しかし真田さんが演じると、その姿も妙にサマになるから面白い。また身分違いの恋に苦しみ、朋江に対して素直になれない清兵衛の不器用さも見事に表現されていた。
終盤に訪れる、大杉漣さん演じる甲田豊太郎との一騎打ちのシーンや、田中泯さん演じる余吾善右衛門との決闘シーンは圧巻だ。本作では演技の殺陣ではなく、よりリアリティが求められたという。そのため豊太郎との打ち合いシーンでは、本気で斬りにかかった刀がカメラまで吹っ飛んでしまったことでNGも出たそうだ。
また終盤の余吾との決闘シーンは、“これぞ死闘”という息をのむバトルが続く。テレビ時代劇でよく見るような“美しい殺陣”ではない。血だらけになり、そこらじゅうに体をぶつけながらの“武骨な殺陣”は、恐ろしいながらも見る者の心を鷲掴みにした。
このように真田さんは『里見八犬伝』で華麗なアクションを、『太平記』では足利尊氏としての威厳あるたたずまいを、そして『たそがれ清兵衛』では武士としての内面の葛藤を見事に演じ切っている。こうしたキャリアを築き上げた結果が、今回のエミー賞受賞につながったのだろう。
真田さんがプロデュースし、主役も勤めた『SHOGUN 将軍』は現在絶賛配信中だ。本作を楽しむのはもちろん、真田さんのさらなる活躍に期待したい。