■才能を見抜き野球部へと送り出した沢井
『タッチ』の話題で「沢井」と聞いてピンとくる人はどれぐらいいるだろうか。達也が所属していた明青学園ボクシング部キャプテン、その人である。彼もまた察する能力に長けた男だ。それは達也の才能を見抜いたエピソードから分かる。
事故によって和也を失った野球部は、その喪失感から活気を失っていた。キャプテンである黒木はその穴を埋めようと、達也をボクシング部から引き抜こうとする。
弟である和也が「天才」と呼ばれていたのに対して、達也は弟にいいところを取られた「出がらし」だと言われており、勉強、運動ともにできないと思われていた。しかし、潜在能力は和也以上に高く、その才能を早くから見抜けたのは和也、南、原田、それに野球部の先輩女子マネージャーである西尾佐知子だった。そして、和也が亡くなった後に気がついたのが黒木だ。
だが、ボクシング部キャプテンの沢井も、また達也の才能に気づいていた。黒木から引き抜きを提案された際には、達也の素質を認めていると言い、黒木の提案をはねつけている。
そしてその見込み通り、達也は練習試合にて他校の有力選手に判定勝ち。沢井の目が節穴でないことを証明する。
しかし沢井は、個人競技であるボクシングより、仲間がいる野球のほうが達也には向いていると、達也を野球部へ促すのだ。個人競技では達也の優しすぎる性格が災いするとまで見抜いた沢井の慧眼には感嘆してしまう。
しかし、この話にはオチがあり、沢井は漫画家・高橋留美子のサイン色紙1枚と達也の交換に応じたのだった。達也の素質を買っていたというのに色紙1枚で野球部に渡すとは驚きだ。しかし他ならぬ高橋留美子ならしょうがないかもしれない……。
今回は『タッチ』の察しのいい男たちを見てきたが、あだち充作品のメインキャラクターは基本的に鋭い。言葉を多く述べずとも察してくれる。現実世界の我々も学ぶところは多いかもしれない。