池田理代子先生の漫画連載から半世紀の時を超え、劇場アニメ『ベルサイユのばら』の公開が2025年新春に決定した。製作発表から約2年、多くのファンが待ち望んでいた続報に歓喜の声があがっている。
『ベルサイユのばら(以降・ベルばら)』は、少女漫画雑誌『マーガレット』(集英社)にて、1972年から73年まで連載。未読の人は「オスカルとアンドレの恋愛漫画」とカン違いするかもしれないが、本作はそんな生やさしい物語ではない。
このふたりが相思相愛にいたるまで、周囲の人間を巻きこみながらドロドロとした壮絶な愛憎劇が繰り広げられる。それを演出したのが他でもない、オスカルという光を一途に見守り続けた「アンドレ」という人物だ。
アンドレこと、アンドレ・グランディエは、男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェの従者であり、幼なじみ。平民出身の彼は、幼い頃に母を失くしたのを機に、祖母マロンが乳母として働くジャルジェ家に仕えるようになる。
信念のためなら己をかえりみない衛兵隊の隊長オスカルを時に諌め、時には盾となって守ったアンドレは、基本的に心優しい好青年だ。ところが、オスカルに関しての執着と独占欲はすさまじく、激情を爆発させて読者を驚かせる場面もあった。
そこで今回は、アンドレが激情のままに暴走した「問題シーン」を振り返ってみたい。
■昂る気持ちが抑えきれず暴走…
容姿端麗の貴族フェルゼンへの想いを自覚したオスカルは、最初で最後のドレスをまとい、外国の伯爵夫人と偽って舞踏会に参加。ひとりの女性としてフェルゼンと踊ることで、“諦めよう”とした。
ところが、この件がフェルゼンにバレて、その恋心まで知られてしまう。しかもちょうどこの頃、オスカルの周囲ではさまざまな事件が重なり、彼女の心労はかなりのものだった。
真っ暗な部屋で思案するオスカルは、自室にアンドレを招き入れると、幼い頃の思い出に浸る。だが、そんなオスカルの様子から何かを察したアンドレは、「フェルゼンにあったのか?」と尋ねると、図星を突かれたオスカルはひどく取り乱した。
そんなオスカルを、アンドレは優しくなだめるかと思いきや、彼女の腕を強くつかんで抱き寄せると、強引に唇を奪う。
そして、つい先程まで幼なじみとして接していたアンドレが豹変。「おれがこわいか?」「さあオスカル わめくがいい さけぶがいい!」「殺されたってかまわない! おまえを愛している!!」と、恐怖じみたセリフで告白したのである。
さらに彼女をベッドに押し倒し、服まで破いたアンドレだったが、オスカルの涙を見て我に返る。アンドレは、素直に彼女に謝罪したが、そのうえで「ああ……愛している、死んでしまいそうだよ」と深い愛を伝えた。
この一連のシーンでは、オスカルと出会ったばかりの純粋だった思い出と、恋心を抑えきれないほどの存在となった現在の対比が描かれている。
また一方のオスカルは、アンドレに襲われながら、心の中で助けを求めた相手がフェルゼンだったのも切ない話だ。
■同僚のちょっかいにキレて、銃を発砲?
上流貴族で女性上官のオスカルに部下のアランは反感をいだいており、その矛先はアンドレにも向けられていたが、ある日物騒すぎる行動に出る。
父ジャルジェ将軍の命令で、オスカルは自身の副官であるジェロ―デルとの結婚が決定。それを知って落ちこみ、物思いにふけるアンドレに、アランはいつものように軽口を叩き「身分ちがいの恋にあきらめでもついたか」と笑った。
もはや恒例のやりとりだったが、アンドレは「……もういっぺんいってみろ」と殺気のこもった眼差しでアランをにらみつける。
するとアランは「女にふられたときはなドバーッと……」と、さらにからかうと、アンドレは突然手にしていた銃を発砲した。
銃声を聞き、血相を変えて駆けつけたオスカルが叱りつけて理由を問うと、アンドレは「空にむけて撃った!!」と返す。
いくら傷心だったとはいえ、同僚との些細なやりとりで銃を発砲するあたり、やはりアンドレはかなりの激情家だ。
ちなみに、アランがアンドレに発砲されたのは、これが初めてではない。数名の兵士とオスカルを拘束した際には、アンドレはアランの顔ギリギリに発砲。その後も、女性としてのオスカルをバカにして殴られるなど、アランはアンドレの激情を真正面から受けとめた人物のひとりである。