■近年の映画も「モノクロ」版で。見慣れた景色から「色」が消える恐怖
モノクロ版は昔の作品だけではない。2016年に公開され、大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』 にもモノクロ版が存在している。それが2023年に製作された『シン・ゴジラ:オルソ』 である。
ゴジラが街を蹂躙する姿をメインにするわけではなく、政府の官僚たち、すなわち“傍観者”からの視点で描くという、これまでとは異なるアプローチのもとで製作された本作。
台詞を矢継ぎ早に繰り出すことによって、有事の際の緊迫感、未曽有の脅威に対する焦燥感を醸し出すのに成功し、観る者に息つく暇を与えないとはまさにこのことだが、モノクロ版ではそこに、カラーでは味わえない漆黒のゴジラの恐怖も上乗せされ、緊張感がさらに増している。現代の見慣れたはずの東京の景色が“色”を失っており、異質な空気を漂わせている“違和感”がまた恐ろしい。
また、それは2023年に全世界で一大旋風を巻き起こした『ゴジラ-1.0』も同様だ。本作にもモノクロ映像で描き出される『ゴジラ-1.0/C』が存在するが、筆者はカラー版よりもむしろこちらをおススメしたい。
というのも、本作は戦後の日本が舞台となっているために、モノクロ映像が非常に映えるのだ。当時の空気感や質感を肌感覚で味わうことができる。
山崎貴監督が初代ゴジラの恐怖を目指したと語るように、モノクロ版であると、同作へのリスペクトをカラー版以上に感じ取ることができ、ゴジラの恐怖がひしひしと伝わってくる。
映像のクオリティ、音楽の使い方、ストーリーテリングなど、絶妙なタイミングやバランスで構成されていることに、改めて拍手を送らずにはいられない。
さまざまな“色”が存在するカラー版では味わえない恐怖……。白と黒しか存在しないモノクロ版だからこそ、より一層、漆黒のゴジラが迫りくる恐怖が伝わってくる。
これを機会に、ぜひともモノクロ版『ゴジラ』の魅力を再発見してもらいたい。あなたのゴジラを見る目が、“エンタメ”ではなく“恐怖”に変わること請け合いだ。