■キスのあとに複雑な表情を浮かべる少女
本作の終盤に登場した「ララァ・スン」と「シャア・アズナブル」、そしてアムロを交えたニュータイプたちの複雑な関係性が描かれたのが、第41話「光る宇宙」の回だ。
連邦との戦いを前に、シャアは「今度は私がララァの命令に従う」「今はララァのほうが優れている」と告げ、彼女にキスをした。
するとララァは「今日からノーマルスーツをつけて出撃なさってください」と返す。
当時、このやり取りにとくに何も感じなかったが、大人になってから見返すと、さまざまな意図がこめられた言葉に感じられる。
ひとつは、桁外れのニュータイプであるララァは、今回敵となる相手がただ者ではないことを察知していたのではないか、ということ。
アムロがララァの存在を感じ取ったように、ララァもアムロの存在を感じ取り、不吉な予感を察知し、ノーマルスーツの着用を求めたのかもしれない。
もうひとつは、シャアに対する明確な恋慕の感情だ。ララァの「今日からノーマルスーツをつけて出撃なさってください」というセリフのあと、シャアは「うん、ララァがそう言うのならな」と返した。
それを聞いたララァは表情を崩し、先ほどキスをした唇を慈しむような仕草を見せている。それは単なる上官と部下としての関係ではなく、男女間の愛情が介在しているように思えた。
このように『機動戦士ガンダム』は、ある種「子ども向け」とはいえない面もあり、重厚なストーリーを構築している。一見わかりづらい表現もあるが、だからこそ大人にも支持される作品なのだろう。『ガンダム』は子どもの頃に観たっきりという人は、大人になってから再度視聴してみると、新たな発見があるかもしれない。