子どもの頃は意味が分からなかったことでも、大人になると見え方が変わり、理解できることも多い。とくに『ガンダム』シリーズは大人向けの描写も多いため、あらためてアニメを見直すたびに意外な発見もある。
そこで今回は『機動戦士ガンダム』に描かれたシーンのなかから、大人になってから真意に気づいた「意味深な描写」をピックアップ。子どもの頃は気にもしなかった場面を掘り下げてみたい。
■深夜に来訪した少女の想い
物語序盤、アムロに対して恋心を抱いていたのが幼なじみのフラウ・ボゥだ。最終的にはアムロに見切りをつけ、ハヤトと結婚することになるフラウだが、そのきっかけともいえるワンシーンが第14話「時間よ、とまれ」の回にあった。
深夜、アムロの部屋の前で帰りを待っていたフラウ。それも、いつもの軍服姿ではなく、大きめのコートを肩から羽織り、なかに着ているのは私服という姿だ。そのうえ素足にサンダルという組み合わせで、いつもの爛漫なフラウとは思えない大人っぽさがある。
当時、このシーンの意味はよく分からなかった。しかし、大人になってからあらためてこのシーンを見返すと、フラウの切ない想いが痛いほど伝わってくる。
このときのアムロは、年上でお姉さん的存在のマチルダ中尉に熱をあげており、フラウの恋心など、まるで気づいていない様子。それを察した彼女が焦りを感じ、アプローチをかけるのも無理はない。
そしてマチルダに会いに行っていたアムロは、「どこに行っていたの?」というフラウの問いかけに対し、「トイレさ」とあからさまなウソをつく(トイレと逆方向からアムロは帰ってきた)。
そのまま自室に入ろうとするアムロに物を言いたげな視線を送り、立ち去ってゆくフラウ。一連のアムロの対応に、彼女が大きく落胆したのが分かる。
そしてアムロがドアを閉じると、フラウは一度だけ振り返り、アムロの部屋のほうをじっと見つめる。それはまるで、アムロが再度ドアを開けてくれるのを期待しているようにも見えた。
■敵軍を応援する一般兵士
第14話「時間よ、とまれ」には、もうひとつ意味深な描写があった。このエピソードでは、ザクを1機しか持たないジオン軍の部隊と戦うことになる。
ジオンの部隊の作戦は、ザクでガンダムを引きつけ、その間にワッパというホバークラフトに乗ったジオン兵が、ガンダムに直接爆弾を取りつけるというもの。
その作戦は成功し、アムロはたったひとりでガンダムにつけられた時限式爆弾の解除を行うことになった。
爆弾を取りつけたジオン兵たちは、遠巻きにアムロの作業を観察。最初は無謀なことを行う連邦パイロットを笑っていたジオン兵だったが、命がけで孤軍奮闘するアムロの姿を見て、次第に態度が変わりはじめる。
アムロのことを「がんばるなぁ」「勇敢なやつ」と言い、解除するのをどこか応援しているようにも感じられた。
初めてこのシーンを見たとき、「敵軍のアムロを応援するのはなぜ?」と不思議に思ったものだが、今ならジオン兵の複雑な心境も理解できる。ジオンにとって敵のはずの連邦兵も、懸命に生きている同じ人間だということを理解したのだろう。
そしてアムロが最後の爆弾解除に取りかかるとき、ジオン兵のひとりは「間に合わねぇのか」と言いながら、滝のような汗をかいていた。その顔は作戦が成功間近で喜ぶというより、目の前で人を殺してしまうかもしれないという苦悶の表情にも見えた。
結局、アムロは全部の爆弾を取り外し、ジオン側の作戦は失敗に終わる。だがジオン兵たちは晴れやかな表情で失敗を笑い飛ばし、爆弾を外したアムロの顔を一目見ようと民間人を装ってホワイトベースを訪れる。そして「これからも頑張れよ」と声をかけて去っていった。
ちなみに、本エピソードの前話「再会、母よ…」の回では、アムロと母親の相互不理解が描かれた。血のつながった親子がわかりあえず、命のやりとりをしている敵味方がわかりあうというのが、なんともリアルで皮肉なエピソードだ。