1977年に連載が開始された松本零士さんの『銀河鉄道999』は、主人公の少年・星野鉄郎と、謎の美女・メーテルが銀河を旅する壮大なSF作品だ。この2人が立ち寄る星では感動的な出会いや驚きの展開など、さまざまなストーリーが待ち受けている。
しかしなかには、ちょっとオカルトチックな恐ろしいエピソードも登場しているのをご存じだろうか。今回は、暑いこの時期に相応しい『銀河鉄道999』の恐ろしいエピソードを紹介しよう。
■ひたひたと夜中に近づく足音「足音村の足音」
まずは鉄郎が幽霊のようなものに遭遇するエピソードを紹介したい。「足音村」という暗くてさみしい星に降り立った鉄郎とメーテル。直後から2人のあとをつけるように、カラーンコローンと不気味な下駄のような音が響き渡っていた。
その後、古い旅館に泊まることとなりなかなか寝付けない鉄郎は、廊下からひたひたと近づいてくる足音を聞く。気味悪がって銃を片手に廊下に出た鉄郎だが、廊下はびしょ濡れで人の姿はない。部屋に戻ると寝ていたはずのメーテルの布団はもぬけの殻で、その布団はぐっしょりと濡れているのであった。
この話は最終的に鉄郎が“やよい”という名の幽霊のような存在に出会い、彼女の思い出の品を掘り返して感謝されるという、どこかほっこりとした内容になっている。
しかし前半は“まさしくこれぞ日本の怪談”という、恐ろしい展開が続くのだ。あとを付けてくる不審な足音、夜中にひたひたと忍び寄る音、濡れた廊下や階段。そして自分の寝ている布団に何者かが乗ってくる……と、恐ろしい展開の連続だ。
こうした話は昭和の怪談話によく登場していたが、当時『銀河鉄道999』を読んでいた人もきっとゾッとしながら読んでいただろう。
■昔の私はキレイでしょう? 今の私は…「迷いの星の影」
続いて、恐怖の“のっぺらぼう”が登場するエピソードを紹介したい。
凍てつく氷の駅「冥王星」に到着した鉄郎とメーテル。そこは機械の体を手に入れた人間たちの、生身の姿を保存する氷の墓地でもあった。氷の下に無数に眠る遺体を見て愕然とする鉄郎。そこで墓地の管理人のシャドウという女性に出会う。
シャドウは人間であったころの、氷に閉じ込められた姿を鉄郎に見せる。その姿はあまりにも美しく、鉄郎も目を見張るほどであった。しかし機械の身体になったシャドウは昔のような顔を作ることができず、現在はなんと顔のないのっぺらぼうだったのである。
生きている鉄郎に執着してか、鉄郎の腕を離さないシャドウ。恐怖を覚え、鉄郎は「はなしてくれよ!」と叫び、間一髪のところメーテルに助けられるのであった。
「迷いの星の影」は幽霊が出てくる話ではない。しかし機械の身体になった生前の人間たちの姿が無数に並ぶ氷の墓地はなんとも気味が悪く、物悲しさを感じる。
いつの時代も人間は美を追及するものであり、機械人間ではなくても“若いころに戻りたい”と願う人は多いだろう。そんな欲求を叫ぶかのように、自身の美しい亡骸を前にして「あたたかい元の体にもどりたい…」「生きた体にもどりたい!!」と絶望するシャドウの姿も印象的なエピソードだ。