■名前が帰るための重要なカギ! 千尋は自分の名前を間違えた?

『千と千尋の神隠し』において、「名前」はもとの世界へ戻るために重要なカギとなる。魔女である湯婆婆は相手の名前を奪うことで支配する力を持っており、実際、千尋も湯婆婆と契約するときに「千」という名前にされてしまった。

 そのあと、千尋は自分の名前を忘れかけたが、ハクのおかげで“本当の名前”を忘れずにいられた。

 この「名前」について不思議なシーンがある。湯婆婆と契約するときに契約書にサインをした千尋。千尋の本名は「荻野千尋」なのだが、千尋は「荻」の字を間違えて書いているのだ。

 これについては当時から、なぜ千尋が名前を間違えたのかとファンの間ではさまざまな推測が飛び交っていた。わざと間違えたという意見もあるようだが、10歳の少女が不思議な世界に1人ぼっちで、見た目が恐ろしい魔女の前に立っているのだから「書き間違えた」可能性も十分に考えられる。

 大人でも湯婆婆の迫力はかなりのものだ。そんな状況で、働かないと子豚や石炭に姿を変えられてしまうと脅されていれば、手が震え書き損じてしまうこともあるだろう。ましてや、もともと臆病で気弱な性格の千尋なのだから、書き慣れた名前も緊張して間違えてもおかしくはない……。

 公式でもいまだその真相は明かされていないようだが、しかし、このシーンだけでもファンはさまざまな考察をして楽しめる。もはや、宮﨑監督の粋なイタズラのようにも思えてしまう筆者だった。

 

 キャラの行動ひとつとっても、監督の意図が隠されていることが多いジブリ作品。こうして初期設定を見返してみると、紆余曲折の結果、名作ができあがっていることがよくわかる。

 今年も『金曜ロードショー』では8月23日に『となりのトトロ』、8月30日に『天空の城ラピュタ』の再放送が予定されている。何度見ても楽しめるのが、ジブリ作品の醍醐味といえる。残暑が続くいま、ぜひ家でじっくりとジブリ作品を見返してみてはいかがだろうか。

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