2001年に公開されたスタジオジブリの『千と千尋の神隠し』。まだ幼さが残る主人公・千尋が不思議な世界に足を踏み入れ、一歩一歩成長していく姿を描いた本作。千尋に課せられたのは、“働かないと生きていけない”という過酷なルールだった。両親を人質にとられ、千尋は懸命に油屋の一員として奮闘していくことになる。
今回はそんな名作『千と千尋の神隠し』の作中で「なぜだろう?」と疑問に思ったキャラたちの行動を読み解いていこう。
■クライマックス最大の謎…千尋はなぜ豚になった両親を見分けることができたのか?
本作のクライマックスでは、千尋が油屋の主人・湯婆婆から課せられた最後の試練に挑む姿が描かれている。
不思議な世界に足を踏み入れ、身勝手な行動をとった千尋の両親は湯婆婆に豚の姿に変えられてしまう。人間は豚に変えられて食べられてしまう運命の世界で、千尋は働くことで両親を守っていた。
そんな千尋を解放する条件として与えられた試練は、“たくさんの豚の中から両親を当てる”というものだった。姿形に大差のない豚の集団の中から両親を見分けることは不可能に近いだろう。しかし、千尋は豚を見渡し、あっという間に見分けてしまうのだ。
このシーンについては、視聴者から「なんで千尋はわかったの?」という声が相次ぎ、クライマックスの最大の謎として今もさまざまな考察がされている。
筆者が思うのは、本作を通して描かれたのは「千尋の成長」であり、成長の集大成として「千尋が豚から両親を見分ける」シーンがあったのではないかということだ。
幼い少女が“働くこと”を通し、挨拶や自己紹介、洞察力、自主性を重んじることなど、1人でも生きていける力を少しずつ手に入れていく。彼女が持つ本来の優しさも所々に散りばめられ、困難を乗り越えながらクライマックスへと向かっていくのだ。
最後のシーンで、精神的にも人間的にも成長した千尋が、豚から両親を見分けることができたのは、“なるべくしてなった”結果だったのではないかと感じる。
■千尋を人間と見抜いた! 千尋の世話役・リンの意外な正体とは?
本作で、千尋の相棒となるリン。サバサバとした性格で、姉御肌。困っている千尋を放っておけない優しさをも併せ持つ彼女は、人気キャラの1人だ。
ハクに促され、たどり着いた釜爺のもとでリンと出会う千尋。即座に千尋が人間だと気づいたリンは最初は嫌そうな顔をしたものの、湯婆婆と契約したあと千尋をそばで支えてくれる存在となる。
映画の公式パンフレットではリンについて「人間」と記載がある。姿形もほかの従業員たちと比べて人間らしい見た目をしている。だが、『THE ART OF 千と千尋の神隠し』(徳間書店)のなかにある公式のイメージボードでは「リン(白狐)」と記載があるのだ。
たしかにリンは目じりが上がった美人。見ようによっては狐っぽいといえるだろう。
油屋の従業員たちは“人間ではない何か”が大半だ。何かが人型に化けているのなら、リンが狐というのも頷ける。ただ、イメージボードは初期の構想を描いたものなので、実際に作品に登場するリンは、パンフレットの情報が真実なのかもしれないが……。