■魔夜峰央のデビュー初期のホラー短編

 最後は1973年のデビューからしばらくの間は、『月刊ララ』や『花とゆめ』の読み切りや短編でミステリーやホラー作品を発表していた『パタリロ!』の魔夜峰央氏。

 魔夜氏の作品には、妖怪から宇宙人、悪魔に至るまで多種多様な怪異が登場する。さらに絵や構成も上手いのでおどろおどろしい雰囲気ばかりでもなく、ホラーが苦手な人も比較的読みやすい作品が多い。

 たとえば、1978年に発表された『怪奇生花店』はちょっと不思議でほんのり怖い印象的な作品である。物語の舞台は女性と見間違えるほど美形な男性店主・ミロールが営む小さな生花店。ここには、他にはない美しく珍しい花が揃っていた。

 大きな生花店の息子・シフは、金儲けのために彼が作り出す珍しい花々の育成方法がどうしても知りたかった。そこで、買収したトラックを生花店に突っ込ませ、ミロールを助けて恩を売り、花の秘密を教えてもらうという作戦を思いつく。

 だが、タレコミで作戦を知ったミロールに捉えられてしまう。縛られた状態で目を覚ましたシフが見たものは、動物の死体から生える美しい花々。そう、ミロールの珍しい花は死体を養分にしていたのである。

 ミロールは「生きた身体に種を植えつけたらどんな花が咲くか…一度試してみたかった」と焦るシフに種を植え付ける。そして、シフの鉢植えからは怖いほど美しいバラが咲いたのだった。

 妖魔の森に迷い込んだ母が謎の妊娠をして生まれたというミロール。シフの「悪魔みたいなやつ」という言葉通り、彼は魔の存在なのかもしれない。

 大御所漫画家のホラー作品は、駆け出しの頃の短編作品とはいえ怖いだけでなくストーリーに深みがある漫画ばかり。令和に読んでも面白いと感じること間違いなしなので、未読の人はぜひチェックしてみてほしい。

  1. 1
  2. 2
  3. 3