美内すずえ、魔夜峰央に高橋留美子も…べテラン漫画家たちが初期に描いた「最恐ホラー漫画」 読者に強烈トラウマ…の画像
花とゆめCOMICS『ガラスの仮面』第1巻(白泉社)

 背筋の凍るような怖い物語が生み出され、読者たちを恐怖のどん底に突き落としてきたホラー漫画の世界。

 少女漫画では、曽祢まさこ氏や犬木加奈子氏といったホラーものが得意なベテラン漫画家の作品が有名だが、実は現在では別のジャンルで代表作を持つ人気漫画家の中にも、かつて短編でホラーを描いていた作家たちがいる。今回は、その中から“初期の作品”をいくつか振り返っていきたい。

■『ガラスの仮面』美内すずえによる王道ホラー

 1975年から現在まで連載を続ける『ガラスの仮面』の作者である美内すずえ氏は、実はいくつかの短編作品を発表しているホラー作家としての顔も持つ。ゴシックホラーからオカルトホラーまで”恐怖”のジャンルが幅広く、絵柄が美しいことも相まって一つ一つの描写が恐ろしいのだ。

 特に評判を集めたのが、1975年に『月刊mimi』で発表された『白い影法師』だろう。この物語は、美内氏の短編作品の中でもオカルト色が強い王道ホラー。「地縛霊×こっくりさん」という、ホラー好きにはたまらない要素が目白押しの作品だ。

 主人公は、私立藤園女子高校に転入した長谷部涼子。彼女の通う教室では、なぜか窓側の4列目の席が空席のままになっていた。理由を知らない涼子はその席に座り、謎の体調不良や心霊現象に脅かされるようになる。クラスメイトとこっくりさんを試すと、小森小夜子と名乗る霊が現れた。調べると、彼女はこの教室に通っていた生徒だった。

 かつて病弱で友だちもできずにいた小夜子は、涼子と同じ6月10日に転入してきた結城千草と仲良くなるが、病が悪化し入院してしまう。千草が他の生徒と仲良くなることを恐れた小夜子は無理やり登校し、窓側の4列目の席で死亡していた。

 そのまま小夜子は地縛霊となり、涼子をあの頃の千草と重ねて執着していたのだった。命の危険を感じた涼子が霊媒師に相談すると、小夜子が死亡した10月6日に例の席に座り、彼女の霊と戦うよう指示される。

 6時間目が無事終わりかけた瞬間、金縛りにあう涼子。足元から寒気を感じ目線を落とすとそこには恐ろしい形相の小夜子が……と、この登場シーンは超トラウマもの。突如ページいっぱいに現れた恐怖のドアップに、多くの読者が悲鳴を上げたに違いない。

■るーみっくわーるど炸裂のホラー漫画

 1978年のデビュー以来、数々の名作漫画を生み出してきた高橋留美子氏。ドタバタコメディのイメージが強いが、実はわずかながらシリアスなホラーやSF作品を発表しているのもファンには知られたところだ。高橋氏の描くシリアスものは短編ながらかなり中身が濃い、名作ばかりだ。

 心霊的な怖さよりもヒトコワの要素があり、怖さと切なさが入り乱れる。中でも、1983年に『週刊少年サンデー立春増刊号』で発表された『笑う標的』はインパクトが強い。

 同作の主人公は、志賀家分家の息子・志賀譲。東京の高校で弓道部部長として活躍しながら里美という彼女にも恵まれ、幸せな生活を送る彼の元に、6歳のときに親が決めた許嫁・梓が現れる。

 彼女は志賀家本家の一人娘で、子どもの頃から一途に譲を想う、ちょっと重めの愛を持つ美人だった。親の死を機に上京した梓は譲にまとわりつき、彼を自分のものにするため恐ろしい力で邪魔な里美を追い詰めていく。

 この力は幼少期に宿ったものだった。昔、自分を襲ってきた村の子どもを咄嗟に殺してしまった梓は、大量の魔物(母親いわく“屍肉を待ってる餓鬼”)が遺体を食べる姿を見て以来「魔」に魅入られていたのである。

 餓鬼が梓の指示に従って屍肉を食べていたこともあり、双方の関係は憑依ではなく共闘のイメージだった。だが最終的に餓鬼と共に消滅してしまうあたり、心の中は侵されていたのかもしれない。梓の寂しさや心の闇が悲しいほど伝わってくる名作だ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3