■亡き名俳優を受け継いだ熱演は必見…『かぐや姫の物語』三宅裕司

 2013年に公開された『かぐや姫の物語』は、誰しもが知る古典『竹取物語』をベースに、監督を務めた高畑勲さんが独自の解釈を加え再構築した作品だ。

 大きな流れは原作そのままなのだが、本作では主人公・かぐや姫が犯した“罪”と、それに対する“罰”という要素に焦点が当てられていく。日本古来の原風景や、ときに苛烈に展開するシーンの数々を、水彩スケッチ画のような独自のタッチで味わい深く描いている。

 本作のなかで、かぐや姫の育ての親として活躍する“翁”を演じたのが、俳優の地井武男さんだ。しかし残念なことに、映画完成前に地井さんは他界された。

 これを受けて、翁のセリフの一部を代役として演じることとなったのが、俳優の三宅裕司さんである。

 地井さんといえば温かみのある柔らかな声が特徴だが、高畑監督は三宅さんの声にも同様のものを感じ、独特の高さやかすれ声も役柄にマッチしていることから、今回の代役を依頼したという。

 当初、この大抜擢に戸惑う部分もあった三宅さんだったが、地井さんの意志を引き継ぎ、作品の完成を見届けられなかった無念を晴らすためにも、翁役を引き継ぐ決意を固めたようだ。

 三宅さんの熱演は監督からしても圧巻の出来だったようで、違和感のないセリフ回しの数々に、一発OKを出す場面も多かったようである。

 見事に翁の代役を演じきった三宅さん。観客には代役ということを意識させないため、あえて自身の名前を一切出さないことを望んでいたそうだが、スタジオジブリとの協議でエンドロールで“特別出演”として載せるなど、最後まで地井さんへの配慮とリスペクトを欠かすことはなかった。

 代役を通じ、亡き名俳優への感謝の意をあらわした三宅さんの熱演に、思わず胸を打たれてしまうエピソードだ。 

 

 数多くの俳優が登場するジブリ作品だが、メインキャスト以外にさまざまな名俳優たちが秘かに出演している。あまりにもさりげない登場に、なかには映画を観ていながら気付くことができなかったファンも多いだろう。

 8月23日は『となりのトトロ』、8月30日は『天空の城ラピュタ』と、今年も『金曜ロードショー』で再放送が予定されているジブリ作品。意外な名俳優たちの演技をあらためて楽しんでみてはいかがだろうか。

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