■友を斬るか、師を斬るか…あまりにも非情な決断『銀魂』坂田銀時

 普段はギャグ全開の人物が不意に見せるシリアスな一面……というギャップも、キャラクターの魅力を語るうえでは外せない要素の一つだろう。

 2003年から連載された空知英秋氏の『銀魂』でも、主人公・坂田銀時の突き抜けたギャグと“侍”としての熱い姿が多くのファンを夢中にさせた。“銀さん”の呼び名でも慕われている彼だが、普段はとにかくずぼらでマイペースなキャラクターだ。

 ギャグシーンでこそコミカルな“涙”を見せるシーンも多い銀時だが、一方でシリアスなシーンで彼が泣くシーンは非常に少ない。なかでも印象深かったのが、銀時がかつての恩師・吉田松陽を殺めた際に見せた涙だろう。

 攘夷戦争のさなか、銀時は幕府に捕らえられた松陽を救おうと奮闘するも、逆に仲間である桂と高杉が捕縛され、“仲間を斬るか、師を斬るか”の二択を突き付けられる銀時。あまりにも非情な選択であったが、松陽との間に結んだ「皆を守る」という誓いを果たすため、銀時は自らの手で師の首をはねることとなったのだ。

 彼の選択に仲間たちが騒然とするなか、銀時は血に濡れ、どこか静かな表情のまま声もなく涙を流す。ハイテンションに立ち振る舞う普段の銀時からは想像しがたい、重く暗い過去の因縁を描いたエピソードだった。

■勝利の果てに残ったのはただただ虚しさだけ…『封神演義』太公望

 1996年から連載された藤崎竜氏の『封神演義』は、実在する中国の古典小説を原作にしたバトル漫画だ。“仙人”と呼ばれる存在たちの戦いをギャグを交え描いており、原作よりもオリジナリティあふれるストーリーとなっている。

 本作の主人公は、数十年の修業を経て“仙人”になった太公望。仙人でありながら実にマイペースな性格が目立つ太公望だが、彼が作中で唯一の涙を見せたのが強敵・聞仲との激戦が描かれた「仙界大戦編」のラストシーンであった。

 聞仲の圧倒的な実力によって一時は滅亡寸前まで追い込まれてしまう仙界だが、太公望や仲間たちの奮闘により強敵に勝利。未曽有の危機は防がれた。

 平穏が取り戻されたように思えたが、長きにわたる戦いで失ったものは多く、太公望は一人、崑崙山跡地で膝を抱え、消えていった仲間たちのことを思い、涙を流した。

 普段飄々としている太公望の、なんとも物悲しい姿に胸を締め付けられた読者は多いだろう。決して大団円とは言い難い、実に多くのことを考えさせられる結末だった。

 

 普段、なかなか弱い姿を見せないジャンプ作品の主人公たち。だからこそ、彼らが不意に見せる“涙”に読者は驚かされ、心を強く動かされてしまうのだろう。ほんのわずかしか描かれないその貴重なシーンの数々を、ぜひご自身の目で確かめてみてほしい。

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