「しんちゃんのセリフを言うと、息子にイヤな顔されます(笑)」

――野沢さん、矢島さんというお二人の存在が小林さんの目標になっていたんですね。

小林 私の少年声の原点には、元気な男の子の声の野沢雅子さんがいて、もうひとつの原点としてナチュラルな少年の声の矢島晶子さんがいる。だから、『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけの役を受け継ぐということになったときは、本当に感無量でした。

――これからは、小林さんの少年声にあこがれて、声優を目指す人もたくさんいるかもしれません。

小林 もしそういう方がいてくださったら、こんなに嬉しいことはないですね。まだまだ私は勉強中の身なので、そういってもらえるような若い声優さんが出てきてくださるように、まだまだ頑張らないといけないと思っています。

『クレヨンしんちゃん』声優・小林由美子さん 撮影/有坂政晴

――小林さんはお二人のお子さんを持つお母さんでもあります。ちなみに、お子さんはお母さんが野原しんのすけ役を担当されていることをご存じですか?

小林 上の娘……いま中学1年生の娘がいるんですが、その娘はもうだいぶ理解してくれているようです。ただ、下の子、6歳の息子のほうはまだ、しんちゃんをキャラクターとして認識しているようで、私としんちゃんが結びついてはいないようですね。

 私のことを、なにか……「しんちゃんのようなことをやっている人」みたいなふうに受け止めているようで。ときどき、息子と二人でいるときに、しんちゃんのセリフを言うと「ママがしんちゃんみたいなしゃべり方をしている」って、すんごくイヤな顔をされます(笑)。「そういうのやめてくれる?」みたいな。

――では、キャラクターのお芝居をする「声優」という存在がいることを知るのは、これからになるわけですね。

小林 別の作品の話になっちゃうんですけど、私が担当しているキャラクターの中に、息子が好きなキャラクターがいて、その作品を観ているときに、息子がぼそっと「あのキャラクターとお話したいな、電話番号を知ってたら話ができたのに」って言ったんですよ。それでついつい息子に「電話番号知ってるよ」って私の電話番号を教えたんですね。

 そうしたら、もう毎日、電話がかかってくるようになっちゃった(笑)。息子から電話がかかってくるたびに、影に隠れて「もしもし」とかやっていたんですけど、ある日、子どもが「この電話番号をクラスのみんなに教えていい?」って言い出して……。「それは絶対にダメ。これは二人の秘密にしようぜ!」って電話越しにそのキャラクターで一生懸命説得しました(笑)。

 たぶん、彼の中ではアニメのキャラクターは現実に存在していて、電話越しのそのキャラクターも実際にいると思っているんでしょうね。だから、声優という仕事があることも、自分の母親が声優であることもまだよくわかっていないと思います。

――お母さんが声優さんだと知ったら、息子さんは驚くでしょうね。

小林 そうですね。私としんちゃんが結びついていないし、しんちゃんは本当に春日部に住んでいて、そこで暮らしている男の子なんだと思っていると思います。私としんちゃんが、どこかで結びついたときにどんな反応をするか楽しみですね。

『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2024

【小林由美子プロフィール】
6月18日生まれ、千葉県出身。1998年に声優デビュー。おもな出演作に、『ピースメーカー鐵』『焼きたて!!ジャぱん』、『デュエル・マスターズ』シリーズ、『鬼灯の冷徹』などがある。2018年からは『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけ役に起用された。

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