努力と根性で挫折を乗り越え、天才型のライバルに打ち勝ち、頂点をつかみ取る――そんな主人公の姿が感動を呼ぶ「スポ根」もの。昭和世代が親しみやすいこの図式で、スポーツならぬ大学受験を描き、しかも努力以前に才能も重要な「美大」を目指す漫画が大きな話題となっています。
“スポ根×美大受験”という、異色の取り合わせで注目を集めるのは、山口つばさ氏の漫画『ブルーピリオド』。コミックス既刊15巻で、累計発行部数700万部突破という人気作です。すでにアニメや舞台にもなり、8月9日からは眞栄田郷敦さん主演の実写映画も公開されました。
本作は、飲酒も喫煙もする金髪のヤンキー高校生が、あるきっかけで絵に目覚め、東大より難しいとも言われる東京藝術大学を目指して、ゼロから奮闘するという物語。いかにも漫画的に聞こえるかもしれませんが、藝大出身の著者によるリアルな描写が説得力・大の作品です。
2017年より『月刊アフタヌーン』(講談社)にて連載中で、これまでに『マンガ大賞2020』、『第44回講談社漫画賞 総合部門』を受賞したり、『第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 審査委員会推薦作品』に選出されるなど、各方面から高く評価されています。
また、コミックスの翻訳版は15ヵ国以上で発売され、2021年にはテレビアニメがNetflixで全世界に配信されるなど、ワールドワイドな人気ぶり。今回、眞栄田郷敦さん、高橋文哉さん、板垣李光人さん、薬師丸ひろ子さんらが出演する実写映画となったことで、さらにファン層が拡大しそうです。
■経験も才能もない不良高校生、藝大受験への650日間
では、気になる物語をもう少し振り返りましょう。
主人公の矢口八虎は、「DQNの癖にちょー頭いい」とクラスで人気の高校2年生。要領がよく、渋谷のスポーツバーでオールする友達づきあいと、学年上位の成績とを両立させ、“リア充”な日々を送っています。一方で、本気で取り組まずともうまくやれている現状に、虚しさを感じることも。
そんなある日、偶然目にした美術部員の絵に心を奪われ、これまでまるで眼中になかった美術へと意識が向きます。そして、サボれそうという理由で選択した美術の授業で、オール明けの渋谷の風景を青い絵の具で表現し、遊び友達から共感を得たことで、絵を描く悦びに目覚めるのです。
その衝動は激しく、美術部へ入部して、美大進学を考えるまでに。家の経済状況から私立を諦め、国立である東京藝術大学への挑戦を決意します。ところが、八虎の志す絵画科は、現役で合格するのは毎年5人ほどとも言われる狭き門。日本一受験倍率が高いとも言われる学科です。
強烈な個性を放つ天才や、芸術一家に生まれたサラブレッドをライバルに、経験も才能もない八虎がいったいどう戦うのか……? 受験までの650日間、何度もの挫折を味わいながら根性で乗り越えていく、努力と成長の日々が描かれます。