■数々のライバルたちと決着! 鶴亀トラベル時代

 短大卒業後、父・猪熊虎滋郎探しも兼ねて鶴亀トラベルに就職した柔。日刊エヴリースポーツの記者・松田耕作との恋愛模様が描かれるなか、これまで登場してきた数々のライバルたちと決着をつけていくこととなる。

 筆者の個人的なベストマッチは、「全日本女子柔道選手権大会」での一戦だ。奇しくも決勝は、準決勝でさやかを下した富士子と柔の親友対決となる。

 周囲は“優しい柔が手を抜くのではないか”と危惧していたが、柔は開始早々あっという間に富士子を一本背負いで投げ飛ばした。大切な親友だからこそ本気で迎え撃つ柔の姿は感動的で、なんともドラマチックな展開だった。

 さらに柔は翌年の「全日本選手権」も、なんだかんだで因縁深い相手・藤堂由貴を決勝で破り連覇を達成していた。

 そして作中、柔がもっとも苦戦した試合の1つが「全日本女子柔道体重別選手権大会」決勝でのさやかとの対決だ。柔の父・虎滋郎の指導を受けたさやかは、寝技主体で柔を追い詰め続ける。

 最後まで真っ向勝負を続けた2人だったが、残り数秒で柔が一本背負いで辛くも勝利。練習を重ね、それまで持ち味だった華麗な立ち技を捨ててまで挑んださやかだったが、柔には一歩及ばなかった。

 作中最後となった「バルセロナ五輪」でも、48kg以下級では、決勝でフランスの新鋭・マルソーを破って優勝。無差別級ではソ連のアンナ・テレシコワ、カナダのジョディ・ロックウェルと並み居る強豪たちを破り、柔の代名詞“一本背負い”のオール一本勝ちで金メダルを2つ獲得している。

 ちなみに、1964年東京大会から1984年ロサンゼルス大会まで男子のみで実施された「無差別級」だが、現在の五輪では存在していない。そのため、現実世界では個人で2つ以上の金メダルを取った女子選手はいないようだ。

 

 今回は『YAWARA!』のヒロイン・猪熊柔の凄さを振り返ってきた。作中敗れたのは「全日本女子柔道体重別選手権大会」での不戦敗のみ。やはり、圧倒的な強さを誇っていた。

 そんな柔だが、おそらく作中で最も苦しんだのが「全日本女子柔道体重別選手権大会」でのさやかとの試合だっただろう。

 寝技を得意とするさやかのスタイルは、今回パリ五輪で柔と同じ48kg級で金メダルを獲得した角田選手に通ずるものがある。作中で圧倒的な強さを誇った柔だが、角田選手は間違いなく苦手なタイプであろう。

 角田選手と柔、2人の金メダリストが対戦したらいったいどうなるのだろう……そう想像するのも楽しいのではないだろうか。

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