■宮崎駿さんならではの脚色にも注目!

 本家『シャーロック・ホームズ』シリーズは、19世紀のロンドンを舞台にした本格ミステリーだ。一方の劇場版『名探偵ホームズ』は、ホームズやワトソンなどは登場するものの、全てのキャラの見た目が犬のように変更されているのが特徴のひとつである。これについては、当初は別のキャラクター設定がイタリアの制作陣から提案されていたのだが、宮崎さんを中心に現在の姿に変えていったということが、初期6話の作画監督・原画を務めた友永和秀さんによって明かされている。

 さらに、宮崎さんが監督を務めているということで、戦艦や飛行機などが出てくる迫力たっぷりのアクションシーンも登場する。こうした部分からもジブリ作品につながる要素が見られるのだ。

 原作は本格ミステリーだが、本作ではアクションシーンに重きを置くアレンジが加えられている。ミステリーよりもどちらかというとアクションの要素が強く、ホームズとワトソンが飛行機や自動車といった手段を駆使するモリアーティ(劇場版での名前はモロアッチ)と激しいチェイスを繰り広げている。

 ロンドンの美しい街並みで描かれる追跡劇はドキドキハラハラする展開の連続で、子どもでも楽しめる要素が満載だ。後にジブリ作品で世界中を魅了する宮崎さんのアイデアと自由な発想が生み出した名作となっていた。

■劇場版(1984年版)のみの豪華な声優キャスト!

 劇場版(1984年版)はテレビアニメ版とでは声優が違うことにも注目してほしい。『名探偵ホームズ』は当初、テレビアニメとしては完成していなかったために、劇場版のためだけにアフレコをおこなっている。そして後に正式にテレビアニメが制作されたときには、一部主要キャラの声優が変わっているのだ。

 1984年の劇場版『名探偵ホームズ』では、ホームズ役とハドソン夫人(劇場版での名前はエリソン夫人)役をそれぞれ柴田侊彦さんと信澤三惠子(当時は信沢三惠子名義)さんが演じている。柴田さんは時代劇に多く出演した大物俳優だ。信澤さんは『未来少年コナン』など他の宮崎さんの監督作品でも声優を務めており、ドラマや舞台など幅広い分野で活躍している。

 柴田さんはややトーンを抑えた理知的なホームズを表現しており、アクションシーンも多い作品のために、静と動のコントラストがしっかりと感じられる。夫人役の信澤さんはトーンの高い清楚な印象を与える声だった。イギリスの淑女らしい丁寧な口調を優しい声質で表現していて、美しく気品のある演技を見せている。

 テレビアニメ版でホームズを演じたのは広川太一郎さん、ハドソン夫人を演じたのは麻上洋子さんだ。それぞれの演技を聞き比べてみるのも面白いかもしれない。

 

 劇場版『名探偵ホームズ』はいま見ても楽しめる魅力が多い作品だ。2024年にはスタジオジブリの『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞し、宮崎さんのスゴさを再確認させられた人も多いだろう。

 ぜひこれを機会に、公開40周年を迎えた劇場版『名探偵ホームズ』の魅力も再確認してほしい。

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