日本が世界に誇るアニメ監督・宮崎駿さんは、数多くの名作を生み出している。そんな宮崎さんの監督作品には、スタジオジブリで制作した作品以外にも名作がある。そうした作品としては『未来少年コナン』や『ルパン三世 カリオストロの城』などが有名だが、『名探偵ホームズ』もそのひとつだ。
本作はアーサー・コナン・ドイルが生んだ『シャーロック・ホームズ』シリーズを下地にした作品で、宮崎さんの脚色によって子どもでも見やすい冒険活劇としてアニメ化された。
テレビアニメと劇場版が制作された本作だが、そのうち劇場版『名探偵ホームズ』は2024年に40周年を迎え注目を集めている。そこで今回は、本作の魅力をあらためて振り返ってみよう。
■『風の谷のナウシカ』との同時上映で初披露!
イタリアの国営放送局と日本の制作会社・東京ムービー新社(現トムス・エンタテインメント)が共同で制作した『名探偵ホームズ』。本作は当初、宮崎さんが監督を担当し、イタリアで子ども向けのアニメとして放送されるはずだった。
しかし、版権上の問題等が発生し、一度は製作が中断。すでに数話分が完成していたにもかかわらず、イタリアでの放送は見合わせる事態になってしまう。
こうしてお蔵入り寸前となった本作だったが、宮崎さんが1984年に『風の谷のナウシカ』を完成させたため、国内で日の目を見ることになった。この作品と同時上映する形で、「青い紅玉(ルビー)の巻」と「海底の財宝の巻」の2つのエピソードが公開されたのだ。
これがきっかけで本作はテレビアニメとしての放送が決まり、全26話の構成で放送された。テレビアニメ版では宮崎さんが監督を務めた作品もあるが、途中から御厨恭輔さんが引き継いでいる。
さらに1986年には、『天空の城ラピュタ』との同時上映で「ミセス・ハドソン人質事件の巻」「ドーバー海峡の大空中戦!の巻」というエピソードが公開されている。こちらも同じく、テレビシリーズで宮崎さんが監督を務めたエピソードのセレクションだ。
ジブリ作品というブランドが確立される前の宮崎さんの監督作品ということで、ジブリファンも必見である。
■脚本家は新人を起用し、後に大物に!
『名探偵ホームズ』シリーズの脚本では、プロではない新人の起用もおこなわれた。なんと、製作当時には大学生だった片渕須直さんといとう斗士八(当時は伊東敏也名義)さんが一部のエピソードで脚本を担当しているのだ。当時新人だったこの二人は、いまでは大物クリエイターとして知られている。
片渕さんは学生の時に本作の脚本を担当し、その後は演出や絵コンテなどを担当して宮崎さんとの仕事を続けて、アニメ製作者としての地位を確立した。片渕さんの近年の代表作と言えば、『この世界の片隅に』だ。この作品は2016年に公開後、世界中から大絶賛され、第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞をはじめ国内外でさまざまな賞を受賞。現在は東京藝術大学大学院で講師をするなど、アニメ監督として極めて高い評価を得ている。
そして、いとう斗士八さんは、大学卒業後にテレビドラマの脚本を数多く手がけ、『あぶない刑事』シリーズや『はみだし刑事情熱系』シリーズなどの刑事ドラマを担当した大人気脚本家だ。現在は、日本脚本家連盟スクールで講師を担当するなど、後輩の育成にも力を入れている。
両者ともに『名探偵ホームズ』がクリエイターとしてのデビュー作。それぞれの現在の地位を考えると、宮崎さんの才能を見抜く目にも驚かされてしまう。
劇場版で見られるのは片渕さんの作品だけなので、いとうさんが担当したエピソードを見たい人はテレビアニメ版もあわせて見るといいだろう。