「読み切りデビュー」には2種類ある。1つ目は『週刊少年ジャンプ』や『週刊少年サンデー』など出版社を代表する少年誌に掲載されるタイプ、2つ目は増刊号などに掲載されるタイプだ。基本的には増刊号や兄弟誌に読み切りが掲載され、その後本誌読み切りデビューという流れになるケースが多いようだ。
いまでは国民的な人気を誇る漫画家であっても、デビュー当時の作品にはどことなく初々しさが感じられるものだ。今回は、人気漫画家たちの「本誌読み切りデビュー作」を振り返っていこう。
■ドタバタ劇が面白い!鳥山明『ワンダー・アイランド』
日本が世界に誇る漫画家・鳥山明さん。彼の代表作である『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』は今でも多くの人に愛され続けている。そんな鳥山さんの「本誌読み切りデビュー作」は、『週刊少年ジャンプ』1978年52号に掲載された『ワンダー・アイランド』だ。
物語の舞台となるのは、巨大な鳥や吸血鬼、恐竜のような怪物が住む「不思議島(ワンダー・アイランド)」である。この地に不時着してしまった主人公・古巣二飛曹が日本へ帰還するため、鳥の翼を模した装置を作り、空を飛ぼうとするドタバタ劇となっている。
対空機関砲から放たれた石をぶつけられて激高する姿や、人間離れした身体能力を持つ男に振り回されるシーンなど、本作には奇想天外な展開が目白押しだ。何かが起こるたび古巣がオーバーなリアクションをとったり、顔芸をしたりするのがまた面白い。
本作を読むと、鳥山さんらしい独自の世界観がこの頃から生み出されているのがよく分かる。作中で繰り広げられるハチャメチャなキャラたちのやり取りは、『Dr.スランプ』を彷彿とさせる。鳥山さんの短編集『鳥山明○作劇場』に収録されている作品なので、ぜひ一度チェックしてみてほしい。
■どんでん返しからも目が離せない…冨樫義博『狼なんて怖くない!!』
次に紹介するのは、漫画界でも熱狂的なファンが多い冨樫義博さん。『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』などのダークファンタジーを得意とする漫画家だ。
自由な発想と特殊能力を使った戦闘シーンに定評がある冨樫さんは、『週刊少年ジャンプ』1989年20号に『狼なんて怖くない!!』を掲載し、本誌読み切りデビューを果たしている。それまで4度『週刊少年ジャンプ』の増刊号に読み切りを掲載しているため、待望の本誌デビューとなった。
主人公は高校生の拓狼で、その正体は狼男に変身できる人狼一族。彼はところかまわず狼に変身して騒ぎを起こしてしまい、何度も転校せざるを得ない状況を作り出しては両親を困らせていた。しかし、今度の高校は絶対に転校したくないと彼は考えていた。クラスメイトで同じく転校してきたばかりの美少女・早乙女さやかに心奪われてしまったからだ。
本作は狼男の拓狼の恋愛を描くラブコメであり、終盤では意外などんでん返しが待っている。ラストシーン、月明かりの下で拓狼とさやかが並んでいる場面は、恋愛漫画顔負けのロマンティックな構図だった。
『幽☆遊☆白書』のような不器用で正義感の強い主人公が活躍する作品で、何よりもヒロイン・さやかの可愛さが抜群の作品である。こちらは短編集『狼なんて怖くない!!』で読むことが可能だ。