三大小中学生向け少女漫画雑誌として知られる『なかよし』(講談社)、『りぼん』(集英社)、『ちゃお』(小学館)。いずれも恋や学生生活などをメインとした漫画が連載されており、少し年上のお姉さんに憧れる、おませな年齢の少女たちの心をガッチリつかむ月刊誌だ。
子ども向けのキラキラした印象の雑誌だが、夏の時期になるとそれぞれから読切ホラー漫画を中心とした増刊号が発売されていた。夏休みにはこの増刊号をクーラーの効いた部屋で読みながら、その怖すぎる内容に身も心も凍ったという記憶がある人も少なくないだろう。今回は少女漫画雑誌で発表された、大人も背筋が凍るほどのトラウマ級ホラー漫画を紹介したい。
■少女読者にトラウマ体験を与えた人気作家たちの名作
まずは松本洋子氏による『首は笑う』。1995年の『なかよし』の夏の増刊号の付録であるホラー漫画の冊子「恐怖の館」に掲載されていた読切漫画だ。
松本氏といえば、本誌でホラーミステリー漫画『闇は集う』を連載していたこともあり、『なかよし』ホラーの代表的な人物。ネットでたびたび話題となる、にんじん嫌いの少年・たかしが目の前の食べ物が全てにんじんに見えるようになったところから物語が始まる読切漫画『にんじん大好き!』も松本氏の作品だ(1993年3月号の別冊付録「魔物語」に掲載)。
今回紹介する『首は笑う』は、ワガママな性格で周りを振り回す少女が主人公。友だちみんなでピクニックに行き、道中で誤ってお地蔵様の首を落としてしまうが、反省する様子もない。
しかしその後、友人たちの前に姿を現した主人公は先ほどまでとは打って変わって優しい性格になっていた。その額には先ほどまではなかった、お地蔵様そっくりのほくろが……。このあらすじだけでも意味がわかるとゾッとするが、一番怖いのは、その後に描かれたラストカット。少女漫画でこのようなグロテスクな表現がまかり通るのかと驚いたものだ。
同年の「恐怖の館」に収録されていた小坂理絵氏の漫画『家族の食卓』も恐ろしい作品だった。
小坂氏は『なかよし』本誌では『とんでもナイト』『トップ オブ ザ ワールドな人たち』など、かわいらしい絵柄のラブコメ漫画を多く描いていたが、この漫画は少々毛色が違っていた。
まず主人公の根暗な雰囲気の少女・千佐は、少女漫画らしい瞳の輝きもなく、かなり陰気で少女の読者に共感できそうなポイントが何もない。扉絵に描かれた千佐の隣には「お父さん、お母さん、いちどでいいから、家族でたのしい食事をしたいです……。」と不穏な煽り文が添えられている。
漫画の内容は、千佐が学校の課題で「かぞくのしょくたく」をテーマに絵を描きなさいと言われ困っているのを見て、おせっかいなクラスメートのるりが無理やり千佐の家に押しかけるというもの。
るりは千佐の母親が台所で夕飯の準備をする「ある異様な光景」を見てしまい、「…千佐ちゃん なにこれ…!?」と言い残して姿を消してしまう。
翌日千佐が課題で提出した絵には……。普段のテイストとは異なる怖すぎる漫画にはトラウマになる人続出だった。