手のひらサイズの女の子・ちよみと、恋人の南くんの不思議で温かい恋物語を描いた内田春菊さんの漫画『南くんの恋人』。1986年から1987年まで『月刊漫画ガロ』で連載された同作は、これまでに各年代でテレビドラマ化されており、旬の俳優たちが繰り広げるラブロマンスに夢中になったという視聴者も多いだろう。
漫画は可愛らしい絵柄の半面、赤裸々な性描写があったり悲しい展開を迎えたりとやや大人向けな作品だが、ドラマ版は、刺激的な部分をマイルドにしてピュアな恋愛にフォーカスし、結末を変えながらリメイクされてきた。
そして2024年7月16日、テレビ朝日系でスタートするドラマ『南くんが恋人!?』では、「男女逆バージョン」として、手のひらサイズになった南くん(八木勇征さん)とちよみ(飯沼愛さん)の恋が描かれる。今回は、新ドラマ放送に際して過去のシリーズを振り返ってみよう。
■初代実写化作品は1990年放送の単発ドラマ
実は『南くんの恋人』の初代実写化作品は、1990年にTBS系列で放送された単発ドラマである。
南くんこと南浩之を演じていたのは工藤正貴さん、堀切ちよみを演じていたのは石田ひかりさんで、1986年に女優デビューした石田さんは今作が初の主演ドラマ。小さくなった姿はとてもキュートで、新人とは思えない演技力で物語を盛り上げた。
女優の工藤夕貴さんの弟である工藤正貴さんは、メガネをかけた奥手男子・南くんを忠実に再現しており、シリーズ中で最も原作のイメージに近いのではないだろうか。
今作には、ちよみの体が小さくなるのは家系に理由があり、過去に祖母も同じ経験をしたというオリジナル設定があった。また、原作のラストはちよみが事故で命を落とす悲しい結末なのだが、今作はいなくなったちよみが風船に掴まって帰ってくるというメルヘンチックな結末になっている。
■一番有名?”小さな恋人”を世に広げた1994年版
実写版『南くんの恋人』で最も印象的なのは、1994年にテレビ朝日系列で放送された第2作目ではないだろうか。トレンディドラマ最盛期のこの時代に、”小さくなった恋人とのラブストーリー”という一風変わったシナリオは大ヒットした。
主演を務めたのは武田真治さんと高橋由美子さんで、二人は幼馴染。ちよみはトラック事故で小さくなっていて、遺伝という前作の設定は消えている。ちよみの父親役・草刈正雄さんをはじめ、脇を固めるキャストも素晴らしく、高橋さんが歌う主題歌『友達でいいから』も大ヒットを記録した。
撮影は別撮りでの合成だが違和感もなく、本当に高橋さんが小さくなっているかのように自然だったのも印象深い。ただ高橋さんは2020年に出演したラジオ番組『伊集院光とらじおと』(TBSラジオ)内で、「ほぼスタッフとしか会ってなく、ブルーバックで一人芝居する孤独な作業だった」と当時の様子を語っており、撮影時は過酷な一面もあったようだ。
また、今作のラストはちよみが南くんとの旅行先で衰弱し、小さいまま消えるように死んでしまう悲しい結末で、当時多くの視聴者がショックを受けた。だが、その後制作されたスペシャルドラマで、ちよみは最終的に南くんと結ばれている。