■史上最もイイ声?の『大奥』井伊直弼

 最後に、2023年11月に放送されたドラマ『大奥 Season2 幕末編』(NHK)。原作『大奥』はよしながふみさんによるフィクションベースの時代漫画で、若い男子だけがかかる流行り病によって男性人口が激減し、女性が社会の担い手となった架空の江戸時代を舞台にしている。

 ドラマのSeason2では、8代将軍・徳川吉宗亡き後から、幕末・大政奉還までの物語が描かれた。幕末というと人気のある歴史的人物が多いが、津田さんが演じたのは大老・井伊直弼。強引に日本の開国・近代化を推し進めて反対勢力を激しく弾圧し、尊王攘夷派の反発により暗殺された井伊は、幕末史では悪役として描かれることが多い。

『大奥』でもその傾向は表れていた。コレラの流行について、老中・阿部正弘(本作では女性という設定)の責任をネチネチと厭味ったらしく追及した挙句、「この国難をなよなよと女のやり方で乗り切るのは無理じゃ」と老中の座から追いやろうとする井伊。

 しかし正弘に言い返され、「フハハハハ…!」と悪人然とした高笑いをすると、突然「ようも井伊にさような口をきいたな! そなた家格を何と心得る!」と激高する。

 厭味ったらしい、男尊女卑、プライドが高く突然キレる……歴史の悪役にふさわしい津田さんの演技に視聴者は大満足だった様子だが、2023年12月に放送された『情熱大陸』(MBS・TBS系)では、井伊を納得のいくように演じ切れず悔しがる津田さんの姿が映し出されていた。果たして津田さんが思い描く井伊直弼像はどんな姿だったのか。いつか見てみたいものだ。

 

 以上、俳優・津田健次郎さんが演じた漫画原作のヒール役3選を紹介した。こうして振り返ってみると、声優でも俳優でも、その人物の“人間味”を届けてくれる演技が、津田さんの魅力のように思う。

 2024年秋には声優として、アニメ『青のミブロ』(読売テレビ・日本テレビ系/安田剛士さん原作)で、井伊直弼と同じ時代を生きた新選組・永倉新八役を務めることが報じられた。物語の題材として描かれることの多い永倉新八を、津田さんは今回どう演じるのか。今から楽しみでならない。

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