藤子・F・不二雄さんによる漫画『ドラえもん』に登場する、ジャイアンこと剛田武の妹・ジャイ子。彼女はのび太の将来の結婚相手として漫画第1話から登場する古参キャラだが、初期の頃は意地悪な性格で今のイメージとはかけ離れていた。
実は”ジャイ子”はあだ名で、彼女には本名がない。これは「本名を決めてもし同じ名前の子がいじめられてしまったら……」という藤子さんの配慮によるものということが、2006年放送のテレビ番組『ドラえもん誕生物語 藤子・F・不二雄からの手紙』で明かされている。
そんなジャイ子の夢は漫画家であり、小学生ながら「クリスチーネ剛田」として同人活動をしていた。思えば、彼女の漫画との向き合い方、内省の鋭さは小学生とは思えないほどしっかりしている。強い精神力や向上心には、見習うところもあるだろう。
今回は、才能を開花させていった漫画家「クリスチーネ剛田」の軌跡を振り返ってみよう。
■のび太の奥さんからプロの漫画家に?!変化した性格と設定
ジャイ子はもともと、”のび太の将来の嫁”というポジションだった。てんとう虫コミックス(以下同)1巻「未来の国からはるばると」で未来からきたドラえもんと、のび太の孫の孫であるセワシの口から明かされたこの事実。のび太は「いやだよ、ぼく。あの子きらい。!」と難色を示すが、セワシに見せられた未来の写真にはジャイ子と6人の子どもの姿が。
しかし、ドラえもんが来たことで未来が変わり二人の結婚ルートは薄れていく。ジャイ子はしばらくの間登場しなくなるが、22巻「ジャイ子の恋人=のび太」で再登場する。
「また結婚ルート!?」と驚くサブタイトルだが、エピソードは元気のないジャイ子を心配したジャイアンがジャイ子の机を漁るとのび太の写真が出てきて、恋わずらいではないかと勘違いするというもの。
実際はジャイ子がのび太をモデルにしたギャグ漫画を描こうとしていただけで、この回を機に”ジャイ子=漫画家の卵”という設定が出来上がる。そして、ヤンチャな性格も穏やかになっていった。
■成功への道を切り開く向上心と忍耐力
再登場以降は、たびたび漫画家を目指す様子が描かれた。スランプに陥ることも多いが、画力も向上心も高い彼女は、その都度乗り越えて確実にステップアップしていった。
とはいえ現実は甘くなく、24巻「まんが家ジャイ子」では頑張って描いたギャグ漫画がのび太から「こんなへたくそ、みたことない。」と辛辣な評価を受けてしまう。しかしジャイ子は文句も言わず「いいのよ。がんばって、今度こそおもしろいのかくから。」と奮い立つ。なんとけなげなのだろう……。
29巻「まんが家ジャイ子先生」では、新人賞落選が続き再びスランプに陥る。ジャイアンは「百回や二百回の落選でくじけるな!! お兄ちゃんがついてるぞ。」と励まし、ドラえもんの道具で彼女が描いた漫画『ショコラでトレビアン』が有名雑誌に掲載されたように見せかけた。
編集部のフリまでしてジャイ子を喜ばせるも、ジャイ子は冷静に作品を見直し「どれもこれも、プロのまねじゃないの。あたしのかきたかったまんがは、こんなものじゃないんだわ。」と気づく。
生の声を聞くべく作者を明かさずにスネ夫に作品を読ませると、「ひっでえまんが!!」とまたしても酷評。だが彼女は「はっきりいってくれてよかった。これで目がさめたわ。」と受け止め、ジャイアン扮する編集部に電話をかけて「第一歩から、勉強しなおします。」と連載を辞退するのだった。この回で大きく成長したジャイ子。小学生にしてこの俯瞰力を持つとは、この才能こそ凄まじいものだ。