■猪木さんの言うことなら本当!? 『プロレススーパースター伝説』

『プロレススーパースター列伝』(原作:梶原一騎さん、作画:原田久仁信さん)は、プロレスラー・アントニオ猪木さんの視点も加えたドキュメンタリー風の漫画だ。

 内容の多くはフィクションなのだが、作品に描かれていることはすべて真実だと思っていた人も多いだろう。

 たとえば、コミックス7巻に掲載されている「なつかしのB・I砲!G馬場とA猪木編1」に登場する、アントニオ猪木さんとジャイアント馬場さんの生い立ちはほぼ実話である。

 しかし、コミックス2巻に掲載されている「地獄突きがいく!ザ・ブッチャー2」の話はそうではない。このエピソードでは、ブッチャー1人に対し14人ものレスラーが襲い掛かる。このときブッチャーは空手家のガマ・オテナの指導を思い出し、このピンチを脱出するのだ。しかし、こちらのストーリーはすべて創作であった。

『プロレススーパースター列伝』はときに真実を織り交ぜながら、アントニオ猪木さんの解説もちょくちょく入っている。それが物語の信憑性を高める要因にもなったのだろう。当時の読者は、“プロレスラーはこんなに過酷な過去があったのか……”と信じた人が多かったようである。

■アフリカにある謎の森『のび太の大魔境』ヘビー・スモーカーズ・フォレスト

『のび太の大魔境』は、藤子・F・不二雄さんによる『大長編ドラえもん』シリーズの作品だ。本作にも、当時の子どもが信じた内容が掲載されている。それが“ヘビー・スモーカーズ・フォレスト”だ。

 ある日、秘境冒険に繰りだす計画を立て、アフリカの秘境調査をはじめたドラえもんたち。不思議な犬・ペコと出会い、その後のび太たちは人工衛星に写った謎の石像を発見する。その写真を見た出木杉は「ヘビー・スモーカーズ・フォレスト」と叫び、アフリカに存在する秘境だと説明するのであった。

 今なら、スマホで調べてそのような場所はないとすぐわかるだろう。しかし当時はそうした検索方法もなかったので、ヘビー・スモーカーズ・フォレストはアフリカに実在するものと信じた子どもも多かったのだ。

 なにしろ『ドラえもん』1番の秀才、出木杉が「タバコ好きの森という意味なんだけどね。NASAが、そう名づけたんだ」という解説をしているのを見ると、信憑性はグッと高まってしまう。世界にはまだ自分の知らない秘境がある、そんな夢とロマンを多くの子どもたちに与えてくれた作品である。

 

 スマホがなかった時代、漫画の情報は読者にとって知識を得るツールでもあった。たとえ嘘だったとしても、「こんなことがあるんだ!」と、夢を与えてくれたものである。

 今はスマホ1つで真実かどうか簡単に分かる時代。それはそれで便利だが、何でもすぐに真実が分かってしまうのはちょっとつまらない。たまには昔のワクワクした気持ちを思い出すべく、昔の漫画を読み返すのも楽しいだろう。

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