80年代の少年漫画における金字塔『北斗の拳』(原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏)。無骨な男たちの戦いを描いた本作では、主人公のケンシロウをはじめ、主要登場人物はそれぞれに宿命を背負い、敵対する人物と肉弾戦を繰り広げる。
しかし作品を振り返ってみると、一番クールな印象のあるケンシロウが泣いている場面も多い。淡々と敵を倒しているイメージもあるが、ケンシロウは心が揺さぶられたときに涙を流すことが多いのだ。今回は、本日7月3日の「なみだの日」にちなんで、ケンシロウが涙したシーンを振り返りたい。
■親子2代に渡り救ってくれた恩人の死に号泣…
まず、ケンシロウが号泣したといっても良いシーンを紹介したい。それは、ケンシロウの命を実質2度も救ってくれたシュウの死である。
南斗白鷺拳伝承者のシュウは、仁星の宿命を背負う男だ。幼いころのケンシロウと戦い勝利するが、ケンシロウの命を救うために自らの目を犠牲にしている。
時を経て大人になったケンシロウとシュウは再会するが、ケンシロウは聖帝であるサウザーに一度敗れてしまっていた。その後、シュウはサウザーに戦いを挑むも、人質を取られて苦戦を強いられてしまい、最期は聖帝十字陵の頂上で命を落とすこととなる。
命が尽きる瞬間、シュウは目が見えるようになる。立派になったケンシロウの姿を見届けたシュウは涙し、「ゆけ! ケンシロウ そして時代をひらけ!!」という言葉を残して聖碑の下敷きになって死んでしまう。その際、ケンシロウは聖碑の前に跪き「シュウ~ッ!!」と叫んで慟哭するのであった。
幼いころ命を助けてもらっただけでなく、サウザーとの敗戦後にはシュウの息子・シバも命を捨ててケンシロウを守っている。親子2代において自分のことを救ってくれたそんなシュウが、目の前で尽き果てて行く姿に慟哭するのも無理はないだろう。
このシーンは、ケンシロウの心の痛みがこちらにも伝わり、胸が締め付けられる。彼が涙を流した数多くの場面のなかでも、とくに印象的なシーンだろう。
■「次の一撃がわれらの最後の別れ」ラオウとの最終決戦シーン
ケンシロウは大切な人が死ぬときに涙することが多いが、実は戦いの最中に泣いたこともある。それが最大の宿敵・ラオウとの最終決戦だ。
それまで幾度の戦いを繰り広げてきたラオウと、いよいよ最後の戦いの時。「闘気を撃つ! の巻」で、今まで破ることができなかったラオウの闘気にスッと入ったケンシロウ。驚くラオウの前でケンシロウはスーッと涙を流し「もはや 次の一撃が われらの最後の別れとなるだろう」「おれもトキも同じくめざした あの偉大なる長兄ラオウ!」と言い、実質ラオウに別れを告げるのであった。
これまで残虐非道な行動を繰り返し、愛する女性・ユリアまで手にかけようとしたラオウ。ケンシロウにとっては憎しみの対象でしかなかったはずだが、実は心の底では兄として尊敬していたのだろう。その兄を自分の手で消さなくてはならない心情はいかばかりか……。このシーンも読み返すとグッと胸に来る。
その後ケンシロウに敗れ、すがすがしい顔でケンシロウの顔を包むラオウ。「見事だ 弟よ!!」というセリフに対し、ケンシロウが初めて口にした「兄さん」の言葉も本作の名シーンだろう。