■勉学に燃えるピノコが味わう挫折
そんなピノコを、親のように心配して見守っているブラック・ジャックの姿が切ないのが、ピノコが高校受験に挑む「ハッスル・ピノコ」というエピソード。
だが、見た目が幼児のため、高校の窓口で「ピノコお勉強ちたいよのさ」と受験を申し出ても、「小学校へまずおいで」と門前払い。自宅でブラック・ジャックに「高校か女子大受けたい」と通信教育の卒業免状を見せても「よくやったけどこれは学校じゃない」と跳ね除けられ、大泣きしてしまうのだった。
そんなピノコをみかねて、ブラック・ジャックが大量の札束を用意したことでなんとか高校受験のチャンスを得るが、ピノコの脳はまだ発育途中。受験勉強は集中できず、試験当日も極度の緊張に耐えられず、彼女は救急搬送されてしまう。
結局、高校受験は失敗し、失意のピノコは幼稚園に通うことを約束するが、そこでも園児たちと大ゲンカをして退学になってしまうのだった。
かわいそうなピノコだが、ラストのページではブラック・ジャックもまた、「くよくよすんな!」「幼稚園や学校なんざゴマンとあるさ」とピノコをなぐさめたあと、部屋でひとり塞ぎ込んで机に突っ伏してしまう。
戸籍上では1歳のピノコだが、前述のようにもともとは姉の体内で18年の間生きてきた、19歳を自称する女性だ。その心と体のチグハグさはいつもピノコを悩ませており、それは彼女に体を与えたブラック・ジャックにも分かっていた。
けなげにがんばるピノコと、それを見守るブラック・ジャックの姿が切ない、ちょっぴり泣けてしまうエピソードだ。
■泥棒にまで親切に…誰にでも優しいピノコ
最後は、ピノコの優しさが描かれた「ピノコ還る!」のエピソード。
これは、ある日、家に帰ったピノコが泥棒に鉢合わせるというもので、普通なら恐怖に怯えそうなところ、ピノコは泥棒の身の上話を聞いているうちに同情して泣き出してしまう。そして夜逃げ寸前だという男のためにお金をあげることを約束し、ブラック・ジャックに小遣いを10年分前借りし、100万円を持って届けに行くのだった。
どこまでも親切なピノコだったが、男にはギャンブル趣味があり、ピノコからもらったお金を競輪ですべて失ってしまう。挙句の果てにはピノコを酒場に連れまわし、最終手段に当て逃げまで計画し……と、とことんダメな男だった。
だが、それでもピノコはなぜか男を見捨てず、車に轢かれた彼を助けるようにブラック・ジャックに頼む。そして、とことん親切なピノコに説得されたブラック・ジャックは、半ばキレながら男の手術を行うのだった。誰にでも優しいピノコの姿が描かれた、不思議とほっこりしてしまうエピソードだ。
以上3つのエピソードを振り返ったが、ピノコが魅力的なストーリーはこの他にもたくさんある。かわいいだけじゃなく、強く人間味あふれる彼女がドラマでどう描かれるか、6月30日放送の『ブラック・ジャック』のピノコも注目だ。