■ラスト1コマで…『タッチ』

 1981年から『週刊少年サンデー』(小学館)にて連載された、野球漫画の金字塔『タッチ』。その終わり方は、作者のあだち充さんならではの秀逸なものだった。

 地区予選決勝・須見工業高校に勝利し「南を甲子園に連れてって」という約束を果たした達也は、河川敷で南へ告白、そして二人はキスを交わした。ここで読者の多くが「よし! 次週からいよいよ甲子園の熱い夏が始まるぞ」と思ったことだろう。

 しかし翌週描かれたのは、勉強部屋の前で落ち葉の掃除をしながら、南と達也が「お互い夜遅くまで受験勉強した」という、いつも通りの日常だった。そう、熱い甲子園どころか作中では夏が過ぎ去り、もう秋になっていたのだ。

 そして、新田の妹・由加や松平孝太郎、原田正平などお馴染みのキャラも登場し、地区予選決勝で戦ったライバル・新田明男とも久しぶりに再会する。新田がプロ野球を断念したこと、達也は肩を痛めドクターストップ中であることが語られる。ここまで甲子園のことはまったく語られないままだ。

 そして場面は変わり、喫茶店・南風に貼られた写真から南が新体操インターハイで優勝したことが分かる。そして、いよいよラストのシーンでは達也の部屋に切り替わり、飾られた記念皿の「第68回 全国高校野球選手権 優勝」という文字から、甲子園の結果が分かるという、なんともニクい仕掛けとなっていた。あだちさんらしい、多くを語らないオシャレな最終回だった。

 ちなみにアニメ版では、最終回のクライマックスは南への告白シーンで終わっている。時代を反映したのだろうか、河川敷での告白は電話での告白に変わり「上杉達也は世界中の誰よりも浅倉南を愛しています だから…」というセリフとともに、今でも語り継がれる最終回となっていた。原作漫画とアニメで最終回も少し違ったが、どちらも素晴らしい終わり方だった。

 

 今回は終わり方に感動した少年スポーツ漫画3選を紹介した。いずれも記憶に残る感動的な最終回だったのはもちろん、“天才”桜木花道に、真っ白に燃え尽きるジョー、そして甲子園優勝が分かる演出など、その最後の1ページ1コマまで考え抜かれたものであったことが分かり、思わず感嘆してしまう。名作スポーツ漫画は、その終わり方も素晴らしかった。

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