■娘を探すために見えない目で歩き回り…『ガラスの仮面』

 美内すずえさんによる舞台演劇をテーマに描かれた名作『ガラスの仮面』には、車とぶつかってしまう場面が登場する。それが、主人公・北島マヤの母親である春のシーンだ。

 もともとマヤは母親の春と2人暮らし。しかしマヤは演劇に夢中になり春と衝突し、家を飛び出してしまう。離れて暮らす間にマヤは次々と舞台に立ち、女優として成長していく。しかしその頃の春は結核に侵され、栄養失調が原因で目が見えなくなっていた。しかも大都芸能社長の速水真澄の策略により、山奥の病院に軟禁されていた。

 ある日、春はマヤに一目会いたいと病院を抜け出し、歩き続けるうちに財布を落としてしまう。親切なトラックドライバーに送ってもらうものの、途中で車から降りて再びマヤのいるであろう東京へと歩き出す。しかし咳き込み、よろけたところに1台の車が来て衝突。慌てたドライバーだが、春が起き上がるのを見て「き 急にとびだしてくるから悪いんだ! 気をつけろ!」といって去ってしまう。

 その後、ぼろぼろの体で吐血しながらも、マヤの映画が上映されている山梨の映画館にたどりついた春。劇場内で響くマヤの声を聞きながら、春はそのまま息を引き取るのであった。

 春の直接の死因は頭部打撲による脳内出血で、このときの交通事故が原因と思われる。そのため、これは“車とぶつかりそうになりつつ助かった”というシーンではない。

 しかし、なんとか映画館までたどり着き、愛するマヤの声を聞きながら亡くなったのは、まだ救いのあった最期といえるのではないだろうか。春の死は『ガラスの仮面』の中でも悲しいシーンであり、交通事故というアクシデントがより不運な状況として描かれている。

 

 今回紹介した「車に飛び出して、運転手に怒鳴られるシーン」は、読み手をハラハラさせ、ストーリーをドラマチックに展開させるのに役立っている。

 しかし当然ながら、ギリギリで助かるのは漫画やドラマならでは。実際にそんなことをすれば死亡事故にもつながりかねないので、決してマネをしてはいけない。どれだけ大切なものがあっても道路に飛び出すといったことはせず、普段から安全な生活を心がけたいものである。
 

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