■数々の絶望が存在しなかった“魔王”を生む…『LIVE A LIVE』オルステッド
1994年にスクウェア(現:スクウェア・エニックス)より発売されたSFC用ソフト『LIVE A LIVE』は、場所・時代が異なる複数の物語が巧妙に絡み合っていく名作RPG作品である。
原始時代から現代、はては近未来にいたるまで、さまざまな世界観を舞台にそれぞれの主人公たちの冒険が描かれているのだが、8つ目のシナリオである「中世編」の主人公こそ、本作の“象徴”とも呼べる重要なポジションのキャラクターだ。
中世編は剣士・オルステッドが、姫を助けるため魔王に挑む……という従来の王道ファンタジー作品らしいストーリー構成。しかし、その展開はまさに過酷の一言に尽きる。
魔王の討伐は失敗に終わり、仲間や親友を失ったオルステッド。さらに帰国後、幻覚を見せられたことで国王を手にかけてしまい、国からも追われる身となってしまった。
それでも姫を救い出そうと奮闘するオルステッドだったが、再び赴いた魔王山にて、なんと死んだはずの親友・ストレイボウと再会。彼こそが一連の事件を引き起こした黒幕であることを知る。
親友すら撃破し、やっと姫・アリシアを救出できたかに見えたのだが、姫はすでにストレイボウに心移りしており、愛する人を殺したオルステッドを激しく責め立てたのち、自決してしまう。
仲間を失い、国に追われ、親友に裏切られ、姫に拒絶され……ありとあらゆるものを失ったオルステッドは、その激しい絶望に身を任せ、どこにもいなかった“魔王”へと変貌してしまった。
彼こそが本作の端々に登場する「魔王・オディオ」その人であり、中世編は魔王が生まれるまでの過程を描いたものだったのだ。
魔王を倒そうと奮起する勇者かと思いきや、数々の絶望から自身が魔王そのものになってしまった、なんともいたたまれないキャラクターである。
ゲームによっては仲間の裏切り、寝がえりというイベントも珍しくはないが、かつてともに戦った仲間が“ラスボス”として登場する展開は、プレイヤーたちを大いに驚かせてくれる。かつての優しい姿を知っているだけに、“ラスボス”として変わり果ててしまったその姿に心を締め付けられてしまうのだ。