■単に見た目を煽ったと見せかけて実は奥が深い(?)あだ名
先ほどのハートに対する「ブタ」もそうだが、単に見た目を煽っただけではなく、よく考えるとそのキャラの本質や戦法を煽ったとも取れるあだ名もある。
KINGの部下・クラブは、両手にかぎ爪をつけて戦っていたことから「カマキリ」と呼ばれた。かぎ爪なら「カマキリ」より“ウルヴァリン”や“フレディ”を連想するだろうが、それだとなんだか強そうだ。あえて「カマキリ」という虫を選ぶことにより、彼の戦法も強さも両方小馬鹿にした感がよく伝わる。
また、牙一族に対する「狼さん」という可愛い呼び方も秀逸だ。単に狼の被り物をしているからだけでなく、“華山群狼拳”の使い手ということで、敢えて可愛く呼ぶことで流派そのものを貶める効果も出てくる。
さらに、修羅の国で砂のなかに潜んで罠をかけていたシエは「オレはカニ料理は好みじゃないんだがな……」と、間接的に「カニ」呼ばわりされた。彼の戦法や見た目はいかにもカニっぽいし、語尾も「ガニ」だし、何なら“シエ”は中国語でカニという意味だ。
おそらく「カニ」は彼のアイデンティティそのものであり、それを敢えて“カニ料理は好きじゃない”と「カニ」呼ばわりしたうえで否定するあたり、捻りが利いている。
■あだ名…?
ほかにも「外道」「デクの棒」など、あだ名ではなく単なる蔑称が多いなか、黒王号を「駄馬」と呼ぶのは、ラオウへの煽りとしてはなかなか面白い。
また、成り上がりの大地主・コウケツに対する「ドブネズミ」も蔑称の意味合いが強いが、彼は過去にラオウからも「下衆なドブネズミ」と呼ばれているので、もうあだ名も同然と見ていいのかもしれない。
コウケツのように、強い者に媚びへつらい、自分の利益のためにすぐ裏切るキャラは「ドブネズミ」と呼ばれがちだが、これも「ブタ」よろしくドブネズミには失礼な話だ。
こうして見ると、正直どれもあだ名ではなく罵倒だと思うのだが……精神がダイレクトに強さに影響する拳法家にとって、初対面で相手を煽れる呼び名のセンスは重宝したいところ。このあたりも、ケンシロウの強さの秘訣なのかもしれない。