■『刃牙』炭素を握りつぶしたらダイヤモンドになる?

 連載30年を超える人気格闘漫画シリーズ『刃牙』(板垣恵介さん)でも、ダイヤモンドにちなんだエピソードがある。“地上最強の生物”範馬勇次郎がアメリカのバラク・オズマ大統領と「友好条約」を結ぶ際、オズマから石炭を渡され、こんな頼みごとをされる。

「この石炭を握ってダイヤモンドに変えてほしい」

 オズマいわく、炭素に10万気圧もの圧力をかければダイヤモンドになる。それを地上最強の握力でやってみせてほしい、ということだ。

 荒唐無稽な依頼に勇次郎は、石炭を粉々に握りつぶすパフォーマンスで応える。実際にダイヤモンドはできなかったが、オズマは「Yes, you could(あなたはできた)」と感動を返すのだ。

 さて、仮に勇次郎の握力が10万気圧に匹敵した場合、石炭はダイヤモンドに変わっていたのだろうか?
 確かに人工ダイヤモンドを作る際は、炭素に5万2000気圧以上の圧力をかけて生成する。だが、ダイヤモンドを作るには圧力だけではなく熱も必要だ。その温度はなんと1200度以上! もはや想像もできない超高熱である。

 もし勇次郎が本当にダイヤモンドを作るなら、超人的な握力だけでなく途方もない高熱も発する必要がある。だが、一番恐ろしいのは「それでも勇次郎ならできそう」と思わせる彼の強烈なキャラクターにほかならない。

 

 ダイヤモンドにおけるフィクションは、ほかの名作でも見られる。『魁!!男塾』(宮下あきらさん)ではダイヤモンドの弱点を「ブルッツフォン・ポイント」と紹介しているし、ゆでたまご(原作:嶋田隆司さん、作画:中井義則さん)の『キン肉マン』でも悪魔将軍が体を硬化する“ダイヤモンドパワー”を使っている。

 漫画の世界におけるダイヤモンドの扱いは、もはやお約束だ。現実と違っていても、そっちのほうが面白い。そんな気持ちで楽しめるのも、漫画の醍醐味と言えるだろう。

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