■唯一無二のライバルでありもう一人の主人公『ガラスの仮面』の姫川亜弓
最後は、1975年に『花とゆめ』で連載がスタートした美内すずえ氏の漫画『ガラスの仮面』から。主人公・北島マヤとは別に、もう一人の主人公として魅力を放っていた姫川亜弓を見ていこう。
彼女は、両親が演劇界の人物というサラブレッドだった。そして、生まれながらの美貌、人々をひき込む演技力、気品の高さに芯の強さと、あらゆる魅力を兼ね備えたお嬢様である。
亜弓に対し世間は親の力があるからだと言うが、本人は親の七光りを嫌い、幼い頃から自分の力で大女優になると心に決めていた。ゆえに誰よりもストイックに演劇に向き合い、『王子とこじき』のためにホームレス生活をしてみたり、『灰の城』のためにやつれてみたりと、血の滲むような努力で役作りに挑む。
そんな亜弓にとって、マヤの登場は青天の霹靂だった。亜弓はマヤを見てすぐに彼女の天性の才能に気づき、自分にとって宿命のライバルになると確信する。この、“貧乏だけど演劇の天才のマヤ”と、“金持ちだけど努力でチャンスをつかむ亜弓”という対極的な構図は、この作品の肝になっている。
マヤへの嫉妬心から毒づくこともあったが、信念を思い出した亜弓はリスペクトを持って、正々堂々と『紅天女』をかけて戦うことを誓う。逆に、マヤに陰湿な嫌がらせをする人物へは容赦なく、乙部のりえがマヤを陥れたことを知ると「ひきょうな...!同じ演技者の風上にもおけない…!」と激怒する。
あれほど嫌っていた親の力を使って、のりえと同じ舞台『カーミラの肖像』に立ち、「役者は実力と才能だけがものをいうのだということを思いしらせてあげる…!」と、圧巻の演技を見せつけて舞台を自分のものにする。そして、「マヤ…かたきはとったわよ…」と劇場を去るのだった。
ライバル心とともに育っていくマヤへの友情はなんとも美しく、亜弓の真っ直ぐな演技への想いにも胸を打たれるエピソードである。
今回紹介した名作漫画に登場したライバルたちは、みな芯が強く心が美しく、主人公と純粋にぶつかり合う姿は胸を打つ。一度読み始めたら止まらなくなること請け合いなので、未読の方はチェックしてみてはいかがだろうか。