今でこそ各世代の作家から幅広い作品が生まれている「少女漫画」だが、1950年から1970年代にかけて女性漫画家が少ない時期があり、男性漫画家が主軸として活躍。たとえば、手塚治虫さんが1953年に発表した『リボンの騎士』は「元祖少女漫画」と称された作品で、『あしたのジョー』をはじめ熱いスポーツ漫画を手がけるちばてつやさんは少女漫画で雑誌デビューしている。
今でも国内外で多くのファンを持つ昭和の男性漫画家のなかには、代表作のイメージとはまた違う、別路線の作品や作風を披露していた人も少なくない。そこで今回は、巨匠と呼ばれた男性漫画家たちが描いた「可愛いヒロイン」を紹介したい。
■「自分の得意なジャンルだけに限定しない」挑戦心で描かれた『魔法使いサリー』
最初に紹介する横山光輝さんは、『鉄人28号』(1956年)や全60巻のスケールを誇る『三国志』(1971年)などで知られる漫画界の巨匠だ。
いずれもストーリー重視の展開でギャグはなく、人や戦いの無情など骨太な物語を得意とする横山さんだが、1966年からは少女漫画『魔法使いサリー』を手がけていた。
『魔法使いサリー』は、魔法の国(※漫画では悪魔の国)から来たサリーが、人間界で夢と笑いをふりまく物語。1966年12月よりテレビアニメ化されると大ヒットし、後に「魔法少女アニメの元祖」とも称された人気作品である。横山さんはアニメ放映の約半年前、集英社の月刊少女漫画雑誌『りぼん』1966年7月号から漫画を連載していた。
当時すでに売れっ子の横山さんが『魔法使いサリー』の依頼を受けた理由は、「(今までとは)別のものを描かせてくれるなら」というものだったそうだ。
作家生活45周年記念『横山光輝原画集』に掲載されたインタビューによると、横山さんは「自分の得意なジャンルだけに限定しない」「描いたことのない分野は描いてみたくなる」など、当時の思いを語っている。
なお、連載当初は『魔法使いサニー』だったが、アニメ化の際に商標登録の問題が起き、苦肉の策として「サニー」から「サリー」へと名称変更されている。
■ギャグ漫画の王様が不得手ながら描いた可愛い女の子
少女の"変身"願望をかなえたテレビアニメ『ひみつのアッコちゃん』(1969年)は、主人公の少女・加賀美あつ子(※漫画は「あつこ」)が魔法のコンパクトで"変身"する物語。原作は1962年より『りぼん』で連載された『ひみつのアッコちゃん』であり、それを手がけたのは「ギャグ漫画の王様」とも謳われた赤塚不二夫さんだ。
赤塚さんといえば、大ヒット作『天才バカボン』(1967年)をはじめ、少年誌を中心に多くのギャグ漫画を生み出した人気漫画家。ところが、デビュー作は『嵐をこえて』(1956年)という少女漫画で、活動初期は主に少女漫画を描いていた。
本当はギャグ漫画を描きたかった赤塚さんにとって、少女漫画のキモとなる「少女のこころ」を考えるのは難しかったという。そこで、当時の妻でアシスタントでもあった稲生登茂子さんとともにアイデアを考え、それらのいくつかを作品にも反映させたのだそう。
こうして二人三脚で描き上げた『ひみつのアッコちゃん』は、今なお色褪せることのない少女漫画として多くの少女を夢中にさせたのである。