少女漫画には多くのキャラクターが登場するが、物語が進むにつれ、“実はこんな裏のある人物だった”と判明していく展開も少なくない。
たとえば、先日アニメ第1期が終了したばかりの日向夏氏の大人気ミステリー作品『薬屋のひとりごと』でも、主人公の猫猫(マオマオ)の顔にあるそばかすは実はメイクで描かれたものであり、本当は美しい容姿の持ち主だった……という“裏の顔”があることが作中で明らかになっている。
猫猫の裏の顔は良いエピソードと言えそうだが、ちょっと前の少女漫画には、当初は性格の良さそうな女子だったのに、実は腹黒い裏の顔を持っている設定のキャラクターも多く登場している。今回は、衝撃的な変貌を遂げ、読者を驚かせた女性キャラたちを紹介したい。
■唯一のマヤの味方だと思ったのに…『ガラスの仮面』乙部のりえ
美内すずえ氏による演劇を舞台にした名作『ガラスの仮面』には、実に多くの人物が登場する。そのなかで、主人公の北島マヤを陥れようとする“裏の顔”を持つのが、乙部のりえという少女だ。
のりえが登場するのは、マヤが大河ドラマ「天の輝き」に参加している最中だ。その当時のマヤは俳優の里美茂と恋仲になり人気も急上昇するなど、女優として絶頂期を迎えていた。しかしほかの女優から嫉妬され、里見の親衛隊女子からも嫌がらせを受けるなど、暗雲が漂っていた時期でもある。
そんな時にのりえは、熊本から来た素朴な雰囲気の少女として登場した。当初、マヤの優しい付き人のような存在であり、マヤに嫌がらせをしてくる女性たちを追い詰めるなど、マヤの味方であり心強い存在であった。
しかしのりえがマヤに近づいた真の目的は、マヤを陥れ、自分がその役を奪うためであった。実際、汚い手でマヤを陥れることに成功したのりえは、彼女そっくりの演技で舞台を成功させ、マヤを奈落の底へと突き落とす。
登場時は長い前髪で顔を隠し、決して素顔を見せなかったのりえ。しかし、満を持して見せたその素顔は、切れ長の目元が特徴の美少女だった。
卑劣な手で女優の地位を獲得したのりえだったが、その後はマヤの永遠のライバル・姫川亜弓による手痛いお仕置きが待っている。その胸のすくような展開を含め、大きなインパクトを残したのりえのエピソードは必見だ。
■多くの読者が騙された!? 真面目で健気なヒロインだと思ったのに…『プライド』緑川萌
一条ゆかり氏の『プライド』は、歌手を目指す2人の女性の生き方や戦いを描いたドラマチックな作品である。
主人公は2人。資産家の娘で亡き母親は有名オペラ歌手という環境で育った麻見史緒と、もう一方は貧しい家に生まれながら努力を重ね、オペラ歌手を夢見る緑川萌だ。
登場当初、史緒の家に清掃員として訪れた萌に対し、史緒は高慢な態度でオペラのチケットを譲ったりしている。そんな描写から、序盤は萌に同情してしまうシーンも多かった。
しかしコンクールで史緒と戦うことになった萌は、その態度を一変させる。史緒が舞台に立つ直前、“母親はあなたをかばって事故で死んだ”という事実を伝え、彼女を動揺させるのだ。
アルコール依存症の母親のもと、過酷な環境下で育った萌は“どんな手を使ってもライバルは蹴落とす”というポリシーがあった。時に冷酷な態度や作戦で自分の夢を叶えていく姿には恐ろしさも感じてしまう。
萌に対し「そんな裏のあるヒロインだったの!?」と、ショックを受けた読者も多いだろう。しかし、萌は複雑な魅力を持つヒロインだ。彼女が抱える過去や現実の厳しさ、それに立ち向かう姿に触れるにつれ、読者はまた彼女を応援したくなるかもしれない。物語を読み進めていくたびに印象が変わる、希少なヒロインと言えるだろう。