『ガンダム』作品に触れたことがない人からよくされる質問が、「ガンダムって全部同じ世界の話なの?」である。質問に回答する流れでシリーズごとにさまざまな世界があることを説明するのだが、その違いまで説明するには作品の世界観を少々深堀りする必要がある。
今回は、『機動戦士ガンダムSEED』シリーズの劇場版が公開中であることに合わせて、『SEED』で描かれる「コズミック・イラ」の世界と、アムロ・レイなどが登場する『機動戦士ガンダム』の「宇宙世紀」の世界の違いを、要点を絞っていくつか紹介していきたいと思う。
■時代から必然的に生まれた超人たち
まずはそれぞれの世界に登場する超人たちについて紹介しよう。
おそらく『ガンダム』に触れたことがない多くの人でも耳にしたことがあるのが“ニュータイプ”ではないだろうか。ニュータイプは「宇宙世紀」に登場する超人たちで、アムロ・レイやシャア・アズナブルなどが代表的なキャラクターとして挙げられる。
宇宙という極限の世界に適応するために人間が持つ潜在的な能力を開花させた者たちを指し、テレパシーや空間認識能力の拡大、さらにニュータイプの極みに達するといわゆる念動力のような力で小惑星を押し返すなど、まさに無限の可能性を秘めた存在である。
『SEED』で描かれる「コズミック・イラ」の世界では、“調整者”の意味を持つ“コーディネイター”が登場する。遺伝子治療技術の応用で、強靭な肉体や優秀な頭脳、容姿まで自在に調整された人間だ。その存在は遺伝子操作されていない“ナチュラル”との間に人間的な能力格差を生み、やがて人類全体を巻き込む戦争に繋がる要因となってしまったのである。
さらにコーディネイターの中でもさらに優れたコーディネイターを生み出そうとする者もおり、その存在は人間の深き欲望の結集であると言っても過言ではないのである。
■空間を支配することが勝利のカギ?
我々が住む世界の戦争でも、通信や索敵などを不能にするジャミングが行われている。『ガンダム』の世界も同様にジャミングが行われるが、これがなかなかに厄介な要素なのだ。
「宇宙世紀」には“ミノフスキー粒子”と呼ばれる特殊な粒子が登場する。これは目に見えない粒子を空間に散布することで、広範囲における無線通信を妨害することが可能なのである。同時に索敵も封じられるため敵の位置を把握した上での戦略を構築しにくくなり、戦場にていきなり会敵し白兵戦が繰り広げられることになるのだ。放送当初はその設定が制作現場全体で共有されてなかったこともあり、「これはミノフスキー粒子が作用しているから」という後付けの設定が増えていったのはご愛敬だ。
「コズミック・イラ」では“ニュートロンジャマー”という核分裂反応を阻害する技術が登場する。核ミサイルによって甚大な被害を被ったプラントという宇宙国家が、その報復として地球の地中深くに打ち込んだことで、原子力発電を一切無効化したのである。これによりMS(モビルスーツ)のほぼすべてがバッテリー搭載となり、バッテリー切れを起こすシーンも多々見られる。
しかしのちにニュートロンジャマーを無効化する“ニュートロンジャマー・キャンセラー”が登場し、戦争がさらに泥沼化していく様子も描かれている。「コズミック・イラ」の戦争はとにかく「仕返し」の描写が色濃く描かれており、観ていて非常に虚しい気持ちになることもしばしばだ。