アニメ作品が楽曲のヒットを後押しする時代へ

 昨今、YOASOBIがアニメ『推しの子』のために書き下ろしたオープニング・テーマ『アイドル』が世界的に大ブレイクしたり、アニメ『SPY×FAMILY』の星野源Official髭男dismの楽曲がスマッシュヒットを記録するなど、アニメの主題歌、エンディングテーマが注目を集めることが多い。

 アーティストがアニメの独特な世界に寄り添う楽曲を作ることで、アニメの世界とアーティストの作家性を堪能できる。一粒で二度おいしい相乗効果が、アニメと音楽の間で生まれている。

 もちろん『Bling‐Bang‐Bang‐Born』も、『マッシュル』の世界を見事に表現している。この楽曲は、ラッパーのR-指定による変幻自在のラップと、DJ松永による、JerseyClub(ジャージー・クラブ)をベースにしたトラックが特徴だが、歌詞の中に“生身”という『マッシュル』に通じるキーワードや、“一番上”といった『神覚者候補選抜試験編』を感じさせるフレーズが散りばめられていることで、『マッシュル』ファンにもたまらない楽曲になっているのだ。

 だが、この『Bling‐Bang‐Bang‐Born』がヒットした理由は、楽曲と作品のシンクロニシティの高さだけではない。オープニング映像のマッシュたちのダンス――「#BBBBダンス」のシンプルな小気味良さこそが、最も大きなきっかけになったことは間違いないだろう。

 このダンサブルな映像を作ったのは、榎戸駿(オープニング映像の絵コンテ・演出)。アニメ制作会社「A-1 Pictures」に所属する演出家・アニメーターだ。

 東京造形大学アニメーション専攻科出身で、在学中に4コマ漫画雑誌『まんがタイムきららミラク』(芳文社)でデビューしたという経歴の持ち主。「A-1 Pictures」で仕事をするようになってからは、アニメーターの坂詰嵩仁とともにコンビで活躍。ゲーム『Fate/Grand Order』のテレビCMや、アニメ『Fate/Apocrypha』でアクションディレクター(いずれも坂詰嵩仁と共同)を務めるなど華々しい仕事をしている。

 テレビアニメとして今後の放送が予定されている『Fate/strange Fake 』では監督を務めており(こちらも坂詰嵩仁と共同)、まさにその制作の最中に手がけた作品が『Bling‐Bang‐Bang‐Born』のオープニング映像だったのである。

 Creepy Nutsのふたりは、この楽曲でダンスをすることは想定していなかったという。一方で榎戸駿はSNSで「家でやってるような思いつきのダンスをこんなに踊ってもらえるとは思わなかったな…」とコメントしており、世界中にバズったダンスがアニメのスタッフサイドの発案だったことを語っている。

「家でやっているような、思いつきのダンス」だったからこそ、誰もがマネすることができ、TikTokのダンス動画として大ヒットした。アニメのキャスト陣・小林千晃石川界人江口拓也、上田麗奈、梅原裕一郎、七海ひろきらが「#BBBBダンス」を披露し、そしてさまざまなインフルエンサー、著名人たちがそれをマネして、大きなブレイクに導いた。そして、アニメ本編『マッシュル』の人気につながっていく――。まさしく2024年らしいヒットの連鎖がここに生まれたのだ。

 『マッシュル』の「神覚者候補選抜試験編」の放送もいよいよクライマックス。まだまだ人気は加速していきそうだ。(文中敬称略)

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