一条ゆかり『砂の城』に神尾葉子『花より男子』も…昔の少女漫画に多かった“肝心なところで記憶喪失になる展開”の画像
TVアニメ『花より男子』 DVD-BOX(東映)

 昔の少女漫画にはいくつかの王道パターンがある。たとえば、最初は憎みあっている男女が最終的にはくっついたり、ヒロインやプリンスの親友同士も良い感じになっていくといったパターンも多かった。

 そんななかでも物語をドラマチックに展開させたのが、重要キャラに降りかかる「記憶喪失」だ。愛する男女が再び出会えたのに、肝心なところで「あなたは誰…?」という場面に転じてしまい、読者はハラハラさせられたものだった。

 今回はそんな記憶喪失が巻き起こる、昔の人気少女漫画を紹介したい。

■海に落ちたショックで記憶喪失に…『砂の城』

 少女漫画の記憶喪失パターンを有名にさせた作品の1つが、一条ゆかり氏による『砂の城』である。本作は少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)で1977年から連載された、男女の運命的な出会いと別れを描いた作品だ。1997年には、東海テレビ制作・フジテレビ系列でドラマ化もされている。

 あらすじはこうだ。富豪の娘として生まれた主人公のナタリーは、屋敷の前に捨てられていたフランシスと本当の兄妹のように育つ。やがて成長した2人は結婚を誓い合うが、周囲に反対されたため、揃って海に身を投げてしまう。

 一命を取り留めるも、離れ離れになってしまった2人。フランシスを忘れられないナタリーは彼を探し続けるが、フランシスは海に落ちたショックから記憶喪失となり、ナタリーを忘れ別の女性と結婚して家庭を設けていた。

 その後、やっとの思いでフランシスを探し出したナタリー。「あたしよ…フランシス…」と泣く彼女を前にして、フランシスはやっと記憶を取り戻す。ついに感動の再会の時がきた……という2人の前に、さらなる酷な運命が待ち受けるのであった。

 本作だけでなく、昭和時代のメロドラマやサスペンスドラマには、海に身を投げたあとに記憶喪失になってしまうパターンが多かったように思う。その後、徐々に記憶を取り戻すものの、記憶が戻ったからといってすぐに幸せになれるケースは少なかった。『砂の城』はまさにそのような過酷な運命を生きる、男女の悲哀を描いた第一線の作品と言えるだろう。

■プリンスの記憶喪失といえばこの作品『はいからさんが通る』

 大和和紀氏による『はいからさんが通る』は、1975年〜77年に『週刊少女フレンド』(講談社)で連載された人気作品である。

 大正時代を生きるおてんば娘の主人公・花村紅緒には、伊集院忍という少尉の許嫁がいた。当初、紅緒は忍との結婚を嫌がり、あれこれ作戦を立てては結婚を回避しようとする。しかしいつしか忍の優しさに惹かれ結婚を決めるのだが、その矢先、忍がシベリア出兵となって離れ離れになってしまった。

 その後、忍は戦死したと言われ、ショックを受ける紅緒。しかしのちにロシア革命から逃れてきたサーシャ・ミハイロフ侯爵という、忍にそっくりな貴族と出会う。実はそのサーシャこそ、記憶を失って日本に帰国した忍だったのである。

 ロシアでの戦闘で重症を追い記憶を失った忍は、亡きサーシャの妻・ラリサによって助けられ、夫婦として日本に亡命していた。紅緒はサーシャが本当に忍なのか分からないうえ、仮に忍だとしてもすでにラリサの夫である事実にとまどう。忍も記憶を取り戻せない状況が続くなか、紅緒を見るたびにどことなく違和感を感じていた。

『はいからさんが通る』の序盤は、コメディタッチなラブストーリーだ。しかし、忍が記憶喪失になってからは複数の男女の感情が入り乱れるシリアスな展開になっていく。本作はまさに記憶喪失がポイントとなり、物語の雰囲気も一変していったのである。

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