3月17日は、1959年(昭和34年)のこの日、日本初の少年向け週刊誌『週刊少年サンデー』(小学館)と『週刊少年マガジン』(講談社)が同じ日に創刊されたことにちなみ、「漫画週刊誌の日」とされている。
現在の国内マンガカルチャーを牽引する2誌だが、実は最初は「マンガ雑誌」としての立ち上げではなかった。『サンデー』『マガジン』の創刊にはどのような思惑があったのか、両誌の誕生で日本のマンガはどのような変化をたどったのか。2月21日に青年マンガ雑誌の歴史を振り返る『第二次マンガ革命史 劇画と青年コミックの誕生』(双葉社)を上梓した作家の中川右介氏を迎え、両誌の行方を決めた「運命の2日間」からのドラマを追った。
■『サンデー』『マガジン』の行方を決めた「運命の2日間」
――日本で初めての週刊マンガ雑誌となった『サンデー』と『マガジン』。この2誌が誕生したことで、マンガ文化はどう変わったのでしょうか?
中川 まず、この2誌は「マンガ雑誌」として創刊されたわけではないんですよ。『少年サンデー』には、創刊号から手塚治虫『スリル博士』、藤子不二雄『海の王子』、寺田ヒロオ『スポーツマン金太郎』などのマンガが連載され、『少年マガジン』も高野よしてる『13号発進せよ』、忍一兵『左近右近』、山田えいじ『疾風十字星』などの漫画が連載されていましたが、当時は両誌とも、野球を中心にしたスポーツ記事、科学の記事、小説などがの「読み物」がある中で、マンガが掲載されていたんです。マンガは、ページ全体の4割ほどでした。両誌ともに少年向けの「週刊総合雑誌」であって「マンガ雑誌」ではなかったんですね。
――当時は週刊以外でも今のようなマンガ雑誌はなかったのですか?
中川 当時は月刊誌の全盛時代です。少年向けには『少年クラブ』(講談社)、『冒険王』(秋田書店)、『少年画報』(少年画報社)などがありました。これらの雑誌は別冊付録を含めて、マンガの比率が多かったのですが、マンガだけではありません。少女雑誌も同じです。
――1959年3月17日の創刊と、示し合わせたように2誌が同日に発売されていますが、どういう事情があったのでしょうか。
中川 1950年代後半になると、出版界は週刊誌の創刊が相次いだので、そういう時代の流れが少年雑誌にも波及したわけです。先に動いたのは小学館で、1958年秋に少年週刊誌の創刊を決めます。それが『サンデー』です。59年になって、その情報を得た講談社の社長が、「うちが先に出せ!」と号令を出して後を追いかけ、1月末に少年週刊誌創刊を決定します。それが『マガジン』です。
――両誌の創刊号発売が3月17日ですから、ずいぶんと超特急です。講談社はよく作品を揃えられましたね。
中川 そこに以後の行方を決めた「運命の2日間」のドラマがあるんですよ。小学館は58年のうちに、まず手塚治虫先生に依頼に行きますが、人気作家の手塚先生はすでに月刊誌に13本の連載を持っていました。今の漫画と違って4ページや8ページの短い漫画ですが、それでもそこに月に4回出る週刊誌連載が入るとなると、月刊誌に換算すれば4本の連載が増えることになります。それはとても無理だと、手塚先生はなかなか「うん」と言ってくれません。……であればと、小学館は手塚先生に「月刊誌4本の連載を止めてください。その分の原稿料も払います」と言う。それでも決まらないので、「いまもらっている原稿料を全額払うから、どうしても描きたい1本か2本だけ残し、全部切って、小学館にだけ描いてください」という、破格の条件を出したわけです。実質的な専属契約ですね。
――手塚さんクラスの原稿料だと、どれくらいの金額になるんでしょう?
中川 今の感覚だと月数千万円でしょう。これは当時の相賀徹夫社長の許可も事前にとっていた提案で、社長の役員報酬を軽く超える原稿料だったそうです。その意気込みが伝わり、どうにか手塚さんも了解し、『少年サンデー』創刊号から『スリル博士』を連載したわけです。それから小学館は寺田ヒロオさん、藤子不二雄(当時/のちの藤子不二雄A、藤子・F・不二雄)さん、石森章太郎(石ノ森章太郎)さん、赤塚不二夫さんといったトキワ荘グループを獲得します。
藤子不二雄Aさんの日記によると、『サンデー』編集部がトキワ荘を訪れたのが1959年2月11日で、『マガジン』編集部が依頼に来たのはその2日後だったそうです。週刊誌は描いたことがなく、とても2本同時に連載など無理だと思い、お2人は、やむなく断ったということです。
当時の藤子不二雄は講談社の雑誌に多く描いていたので、先に講談社が来ていたら、『マガジン』への連載を受けていた可能性は高いです。そうなっていたら、『オバケのQ太郎』も『ドラえもん』も生まれなかったかもしれません。その後の2誌の行方だけでなく、マンガの歴史、ひいてはアニメや出版界の流れまで決めた正真正銘、「運命の2日間」と言えますね。