■目を背けたくなる人間の本質「ラウ・ル・クルーゼ」

 最後に『機動戦士ガンダムSEED』の、ラウ・ル・クルーゼを紹介しよう。

 人が持つ欲望や競争心の産物として生み出された短命のクローンであるクルーゼは、人類そのものを憎み、地球・プラント間の戦争を裏で操ることで人類を滅亡させようとしていた。

 そんなクルーゼが救いようのない人間の本質を、因縁深きムウ・ラ・フラガに突きつける。「何を知ったとて、何を手にしたとて変わらない! 最高だな人は……。そして妬み、憎み、殺し合うのさ!」と。

 戦いの歴史のなかで使用された兵器により、次世代に影響を及ぼす遺伝子汚染が問題となっていたコズミック・イラの以前の世界。優れた遺伝子治療技術が問題を解決したかと思えば、その技術の応用で高次の存在である「コーディネイター」が台頭。そして能力格差による世界規模の戦争に発展するという人類の愚かさを、クルーゼは「最高だな人は!」と皮肉を込めて叫んだのである。

 クルーゼがそんな世界を憎み滅ぼそうとする“行動”そのものは否定できても、“人間の本質”についてはただの逆恨みであると言えるだろうか。彼のこの叫びは、現に世界から戦争がなくならない根本的な理由を伝えているようにも思え、どこか虚しさを覚えてしまう。

 

『ガンダム』シリーズの世界とはまったく異なる世界を生きる我々だが、キャラクターたちの言葉一つ一つの意味を掘り下げてみると、思わず納得させられる部分も多い。

 ラスボスというあくまで主人公と敵対するキャラクターだが、それぞれに“自身の正義”があるのだ。彼らがどんな信念を持って戦っているかと考えることで、より『ガンダム』シリーズの世界に没入できるのではないだろうか。

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