■劇場で胸が締め付けられた炭治郎の覚悟
続いては、主人公の炭治郎ですらこんなヒドイ目に遭うのか……と絶望してしまったシーン。歴代首位となる404億円の興行収入を記録し、社会現象となった『劇場版鬼滅の刃 無限列車編』では、下弦の壱・魘夢と炭治郎らが交戦するが、血鬼術として夢を使ってくる魘夢の夢から覚める唯一の方法が、良識を疑いたくなるものだった。
幸せな夢を見せてくる魘夢から逃れ、現実に戻る唯一の方法とは、夢の中で自ら死を選択すること。炭治郎はその夢から逃れるために何度も自分の首に刃を向けた。よほどの精神力がないと、夢とはいえ自らの首を切ることは難しいだろう。仮にも少年漫画の主人公に自殺を強いるという衝撃的な展開はトラウマものだ。
しかも、あまりに何度も夢と現実を繰り返すあまり、炭治郎は一度、間違えて現実の自分の首筋に刃を当てようとしてしまったこともあった。「あの時、伊之助が止めてくれなかったら」と考えるとおぞましい。
最後は鬼にまつわるトラウマシーンの中でも、鬼より恐ろしいのは人間ではないかと考えさせられるシーン。『遊郭編』では、上弦の陸である妓夫太郎・堕姫の兄妹と戦うことになる。
元は人間だったこの兄妹が鬼になったきっかけは、「人間にあまりに多くのものを奪われてきたから」だった。人間だった堕姫(人間だった頃の名前は梅)は遊女だったが、妓夫太郎を侮辱した客の侍の左目をかんざしで突いて失明させたため、その報復として生きたまま焼かれてしまう。仕事から帰ってきた妓夫太郎は丸焦げにされ声も出せない梅を抱いて、人間へ恨みを咆哮する。「元に戻せ俺の妹を! でなけりゃ神も仏もみんな殺してやる!」という叫びも虚しく、後ろから例の侍に切りつけられてしまった。どこまでもかわいそうな兄妹の姿は、炭治郎と禰󠄀豆子とは対照的だ。
悪いのは人間なのか鬼なのか。『鬼滅の刃』には考えさせられるメッセージ性も強い。これまでアニメ化のたび話題になってきた『鬼滅の刃』だからこそ、『柱稽古編』ではどのような展開が描かれるのか、アニメオリジナル要素はあるのか、など、期待が高まる一方だ。