『タッチ』上杉達也に『MAJOR』茂野吾郎も…これも時代の流れか? 現実に追い越された野球漫画主人公の活躍の画像
少年サンデーコミックス『タッチ』完全復刻版第13巻(小学館)

 野球の世界の進歩はとても早い。かつて160キロは投げられないといわれていたが、今では何人もの投手が160キロのストレートを投げる。日本人には不可能とされた王貞治さんのシーズン55本塁打も、2022年に村上宗隆さん(現:ヤクルトスワローズ)が56本塁打を打って塗り替えた。フィクションだと考えられていた領域が、時間をかけて現実のものとなったのだ。

 そんな時代の流れに思わぬ余波を受けているのが、往年の野球漫画である。当時は「ありえない」と考えられていたキャラたちの活躍が、いま読むとありうる話になっているのだ。そこで今回は、リアルの野球に追いつかれた野球漫画の主人公たちを見てみよう。

■連載から40年…現実の球速が段違いに! 『タッチ』上杉達也のストレート

 まずは、1981年から『週刊少年サンデー』(小学館)で連載された、あだち充さんによる青春高校野球漫画の金字塔『タッチ』のたっちゃんこと上杉達也から。双子の弟・上杉和也の意志を継いで一度はやめた野球を再開、高校3年生の夏に甲子園優勝を果たした主人公である。1980年代における、高校野球漫画きってのエースといえるだろう。

 達也の武器は、球威とスピードで打者を圧倒するストレート。漫画原作では具体的な球速が語られなかったが、特別TVアニメ『タッチ Miss Lonely Yesterdayあれから、君は…』(日本テレビ系)で「甲子園で152キロを投げた」と語られている。

 そう、152キロだ。連載から40年近く経った現代、甲子園で150キロを投げるピッチャーは当たり前にいる。「令和の怪物」と称される佐々木朗希さん(現:千葉ロッテマリーンズ)にいたっては、高校時代になんと163キロを記録したほどだ。ピッチャーの球速は、野球の進化においてとくに顕著なポイントなのである。40年の壁はあまりにも厚い……!

 念のため、達也の152キロは80年代の高校生としてはとてつもなく速いことだけ付け加えておく。

■漫画の新記録が現実に追い抜かれた! 『Dreams』久里武志の20奪三振

 次は、『週刊少年マガジン』『マガジンSPECIAL』(ともに講談社)にて1996年から2017年まで連載された『Dreams』(原作:七三太朗さん、作画:川三番地さん)の、久里武志を見てみよう。

 久里は素行不良でキレやすいが、野球の才能は誰にも負けない高校球児だ。打っても投げても他者を圧倒する実力を持つ久里は、甲子園でもその才覚をいかんなく発揮していく。

 とくに鮮烈だったのが、夏の甲子園1回戦で神戸翼成高校を相手に達成した20奪三振だ。優勝候補の神戸翼成を、久里はノビるストレート「爆ボール0」でねじ伏せる。プロ入り確実の天才・生田庸兵に3本の本塁打を浴びるも、ほかの打者を寄せつけず20個の三振を奪い、試合に勝利した。

 1試合20奪三振は連載当時、現実の甲子園新記録だ。久里のずば抜けた才能を全国に見せつけた試合といえるだろう。

 だが、漫画のそれであろうと記録は塗り替えられるもの。2012年夏の甲子園大会で、松井裕樹さん(現:サンディエゴ・パドレス)が、1試合22奪三振を達成したのだ。

 フィクションの20奪三振を現実が2つも上回る。これぞ、“現実は漫画より奇なり”といえるだろう。

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