■練習しないプロ選手が弱小チームを優勝させる
やる気のないスポーツ漫画のキャラクターといえば、甲斐谷忍氏の野球漫画『ONE OUTS』の主人公・渡久地東亜もそうだろう。
渡久地は、沖縄の賭け野球「ワンナウト」で499戦無敗の戦績を持っていたが、リカオンズ所属の児島弘道との勝負に負けたことで、万年最下位球団のリカオンズに入団することになった投手。球速130キロ程度のストレートしか投げられないという、高校球児にも劣るピッチャーにも思えるが、その正体は、打者との駆け引きがうますぎる“勝負師”。最終的にはプロ1年目にして、投手部門で三冠をもぎ取った。
作中ではおもに試合の様子が描かれるが、練習シーンで渡久地の姿は見られない。それどころか、パチンコ店で遊んでいる最中にインタビューを受けるほどだ。
しかし、前述したとおり駆け引きがうまく、球威に劣るピッチングでも打たれない術を持つ渡久地。打たれたとしても、ただでは打たれない。さまざまな策を巡らせて、弱小球団リカオンズをリーグ優勝にまで導いた。リーグ優勝決定戦では勝利数ではなく、あえて「負けてもいい数」を計算し、優勝を目指す。
特に、「あえてボロボロに打たれて負ける」という最後の策は、最強の対戦相手マリナーズの油断を誘うだけではなく、相手に決定的な弱点を植え付けるものでもあった。結果的に、マリナーズはその弱点を克服することができず、4連敗を喫してしまい、リカオンズはリーグ優勝を獲得する。野球漫画の主人公としては異例の作戦である。興味がある人はぜひ手に取ってほしい。
一見やる気のないキャラクターは、ストーリー展開に水を差す場合も多いが、スポーツ漫画においては本来の実力とのギャップで熱くなるシーンも多い。熱血志向の漫画では“変化球”となり、ストーリーに深みを持たせる役割でもある彼らもまた、ヒーローのひとりだろう。