『陽だまりの樹』中井貴一に『神様のベレー帽』草彅剛も…没後35年「マンガの神様」手塚治虫さんを演じた俳優たちの画像
『手塚治虫対談集』第4巻(手塚プロダクション)

 手塚治虫さんといえば、言わずと知れた日本を代表する漫画家だ。“マンガの神様”とも呼ばれる伝説的な存在だが、実は数多くの俳優たちが彼の姿を演じているのをご存じだろうか。没後35年となる“マンガの神様”を演じた俳優たちについて見ていこう。

■骨太な幕末劇に込められた漫画家の意外なルーツ…『陽だまりの樹』中井貴一

 手塚さんといえばさまざまなジャンルの作品を手掛けているが、作品ごとの時代設定も実に多種多様だ。

 1981年から『ビッグコミック』(小学館)で連載された『陽だまりの樹』は、なんと幕末の日本を舞台とした物語である。日本が近代化を目指し発展していくなか、武士・伊武谷万二郎と医師・手塚良庵はそれぞれの“使命”を全うすべく、激動の時代を生き抜いていく。

 武士と医師という異なった立場を持つ二人の主人公の生きざまが、史実を交えつつ圧巻のスケールで描かれた本作。

 実はこの主人公の一人である手塚良庵は、手塚さんの曾祖父にあたる人物だという。自身のルーツともいえる人物にスポットライトを当てた、なんとも不思議でドラマチックなテイストの作品だ。

 本作はアニメ、ドラマなど、さまざまなメディア展開を続けており、1992年、1995年、1998年には、それぞれ“舞台化”もされている。

 舞台版では曾祖父・手塚良庵を俳優の中井貴一さんが演じているのだが、彼はアニメ版でもナレーションを担当するなど、本作に深くかかわっている。さらにこの舞台版は、原作者である手塚さんが取材のために“時間旅行”をするシナリオになっているのだが、中井さんは手塚さん本人をも演じている。

 原作が持つ骨太な物語のなかに、原作者自身が密接に絡み合う舞台オリジナルのシナリオは必見。手塚さんの柔らかく温かい人間性を、中井さんも見事に演じ切っていた。一人二役によって、原作者の“過去”と“今”を繋いだ名俳優といえるだろう。

■ドラマを通して伝わる漫画への熱意… 『神様のベレー帽〜手塚治虫のブラック・ジャック創作秘話〜』草彅剛

 手塚さんは数多くの漫画作品を世に送り出してきたが、彼の漫画家としての生きざまに焦点を当てた“実録漫画”も登場している。

週刊少年チャンピオン』および『別冊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載された『ブラック・ジャック創作秘話〜手塚治虫の仕事場から〜』は、手塚さんの名作医療漫画『ブラック・ジャック』の制作工程に焦点を当てた作品だ。

 原作担当の宮﨑克さんと作画担当の吉本浩二さんが手掛けるタッグ作品で、『ブラック・ジャック』はもちろん、いろいろな手塚作品の“裏側”にまつわるエピソードが登場する。

 本作はのちに『神様のベレー帽〜手塚治虫のブラック・ジャック創作秘話〜』とタイトルを変え、テレビドラマが放送された。

 ドラマ化にあたり大島優子さんや田中圭さん、佐藤浩市さんなど数々の俳優が起用されるなか、主人公の手塚さんを演じたのが歌手や俳優として幅広く活躍する草彅剛さんだ。

 原作漫画では手塚さんの当時のスタッフや親族にインタビューをおこない、その回想として過去のシーンを描く手法をとっていたが、ドラマはより大胆にシナリオを改変。現代の女性編集者がひょんなことから過去へとタイムスリップしてしまい、若き手塚さんと邂逅する……という、どこかSFテイストな内容になっている。

 作中、草彅さんは漫画執筆に異様な集中力で取り組む手塚さんを熱演。その鬼気迫る姿からは、周囲を気にすることなく“漫画”に向き合う手塚さんの熱情が伝わってくる。もともと手塚さんのファンだったという草彅さんは「最初は似るのかな?と鏡を見て心配していたのですが、ベレー帽とメガネをかけたら、これは意外に『いける』としっくりきました」と、当時のインタビューで明かしていた。

 漫画『ブラック・ジャック』の制作秘話はもちろん、主演の高い表現力が見どころの一作である。

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