■番狂わせもここまで来るか!『幽☆遊☆白書』煙鬼
冨樫義博氏が手掛ける『幽☆遊☆白書』(集英社)のストーリー終盤に行われた「魔界統一トーナメント」では、漫画史に残るような驚きの番狂わせが起こった。
浦飯幽助が提案した「魔界統一トーナメント」に優勝した者には、魔界すべての支配権が与えられる。魔界中の妖怪が王になるべく参加を表明し、その中には最強格と謳われる黄泉や軀の姿もあった。飛影や蔵馬といったおなじみの面子も集い、まさに『幽白』でも最大規模の大会。誰が優勝するかまったく読めないトーナメントである。
ところが、いざ大会が始まると幽助と黄泉の戦い以外はほぼ描かれず、後日談となる第170話で結果だけが語られることに。
予想外の省略にも驚かされたが、もっとびっくりなのがトーナメントの結末だ。幽助は3回戦で黄泉に負け、その黄泉も敗退し、その他の優勝候補も揃って脱落。本命不在のなか、煙鬼という無名の妖怪が優勝の栄光を掴んだ。(正直「誰だっけ?」と思った……)
煙鬼は幽助の父親・雷禅の旧友であり、実力も決して低くはない。それでも彼が魔界の王になるオチを読めた人はいないはず。大胆すぎる省略を含め、番狂わせに満ちたトーナメントだったといえるだろう。
『刃牙』シリーズのキャッチコピーに「予想は裏切り、期待は裏切らない」という言葉がある。トーナメント展開で伏兵が勝ち上がる展開は、いわば予想の裏切りだ。それでも本命が負けてガッカリするのではなく、むしろ「やられた!」と思えれば、さらにその漫画にのめりこめる。まさに「期待は裏切らない」である。
予定調和だけでは物足りないが、突拍子がなさすぎては肩透かしにあう。どちらにも寄らない最適なサプライズ展開こそ、読者が興奮とともに「番狂わせ」と語り継ぐのだろう。